最初にあった時は確か、丁寧な奴だったよ。

俺の名前は橘冬樹(たちばな とうじゅ)
今日からこの地元の大学に通う事になった男だ。
朝は早く起きたし、入学式だってちゃんと座っていた。
HRも自己紹介もつつがなく終わり帰路についていた。
一人は嫌では無かったし、むしろ静かでいい。
個人的に好きな図書館には明日行こうと決めていた。
ここまでは一般的な生活の域を出なかった筈だ。

「付き合って下さい!」
校門、俺の真正面から聞こえる透き通った声。
入学式早々恋をした青春真っ直中の奴でもいるのだろう。
素晴らしきかな青春。
そんな風に考えて通り過ぎようとしたそのとき、
「おい、貴様・・せめて返事ぐらいしたらどうだ。」
ギョッとするような低い声をかけられ、思わず振り返ると、
生徒指導部のドラゴン、ガナ先生がこちらを睨み付けて来ていた。
隣には告白をしていたのだろう女子も居る。
何故、告白をしていたと分かったかというと、
今も「お願いします!」と頭を下げているからだ。
それも、どう見たって俺に向かって。

「・・え?」
状況を整理しつつ俺はフリーズした。
目の前の女子は、とても綺麗で可愛い。
対して俺はとてもじゃないが自信はない。
まさかそんなことはあるまいと、確認のため俺は彼女に声をかけた。
「え、と・・その、俺と付き合ってほしいってこと?」
恐る恐る、訊く。
彼女は恥ずかしそうに顔を上げると、俺の顔を見てキリリと表情を引き締めた。
もしかして人違いだろうか、きっとそうに違いない。
というか釣り合わないって。
自分を色々なものから守るために作った予防線。

「はい!恋人になって欲しいんです、橘冬樹さん!」
そしてそれは、彼女のはっきりとした言葉に引きちぎられた。
なにこれギャルゲ・・?
「おい・・橘、返事はせんのか。」
戸惑っていると、再びガナ先生が声をかけてくる。
隣の女子はまた頭を下げていた。
確かにこのままにしておくのは気が引ける。
「え、と・・あの、まずは友達から始めないか?
その、俺はあんたのことを良く知らないし、
はっきり言って嬉しいけど、急ぎ過ぎも良くないと思うからさ。」
とはいえ、その勢いのままに流されるのは危険だとも思えた。
なので俺は友達という形に持ち込もうと言葉を選んでみた。
俺が答えてからまもなく女子は顔を上げる。
整った目鼻立ちにこちらを見つめる真っ直ぐで澄んだ綺麗な瞳。
短い金髪とそれらが相まって、俺の心臓は早鐘を打ち始めていた。
「それは、遠回しなOKと取って良いんですか・・?」
期待と不安が窺える声音。
それと軽く潤んだ瞳のコンビネーションに勝てる男子はそうは居ないだろう。
少なくとも俺は勝てない側の人間だ。
「え、あ、ああ、まあ、そうなるかな。
少なくとも俺はさっき言ったように嬉しい。
だけどほら、あんたは俺以外の人が好きになるかも・・」
「そんなこと有り得ないです!!」
言葉の途中で目の前の女子は詰め寄ってきた。
「え、や、ちょ・・」
綺麗な女子が近づいているという事に免疫のない俺は
それだけでしどろもどろになってしまう。
対して彼女は、はっきりとした意志を目から迸らせ続ける。
「私、これまで恋なんてしたこと無かったんです。
ううん、したいと思ったこともあんまり無かった。
でも、あなたの事を見た瞬間、こう、キタんです!!」
「キタって・・」
途中までの本気っぷりがその一言で台無しである。
言われる側の俺がいうのもなんだが、
もっと良い表現は思いつかなかったのだろうか。
「いやでも、やっぱり危ないって。
俺はあんたの名前すら知らないんだし・・。」
「へ?ああ、私はネェル・シャレンって言います。
・・じゃあ、恋人を前提とした友達付き合いでお願いします!」
「う・・?まあそれなら、良い、のかぁ・・?」
一応友達って言ってるわけだし・・
というか何だよ、恋人前提の友達って。
俺達は話しながら次第に迷走し始めていた。
「・・おい橘、シャレン。
話は帰りながらでもできるぞ。
お前達の家は同じ方向で、場所も近いだろうが。」
それに痺れを切らしたガナ先生は、俺達を早く帰そうとして声を上げる。
このまま行けばなし崩し的に付き合うことになりそうで、
正直言って先生の口から止めて欲しかった。
「あ、はい!それではガナ先生、さようなら!」
話を中断させられたのに上機嫌なところをみると、
どうやらこの女子生徒にとってはむしろ好都合であったらしく、
勢い良く頭を下げている。
「ああ、また明日だ。
・・橘、そこまで熱烈に思われているのだから、少々は汲めよ。」
そう言って先生は他の生徒へ視線を移す。
対して俺は、「・・はい」と答えたものの、
内心でため息をつかずにはいられなかった。



「橘さん・・やっぱり迷惑でしたか?」
校門を離れて五分程歩いたところで、
やっと女子・・ネ
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