ツンドラ

バレンタインデー、夏祭り、etc・・
それはリア充どもが活き活きと憎らしいほどに活性化する時期。
だが、リア充とは何も自覚のある者だけではない。
(ぼっち・・か)
道を歩くリア充を悲しみとも憎しみともつかぬ表情で見つめるこの青年、
流川宗谷(るかわ そうや)もそんな自覚無しのリア充である。
彼は自分では非リア充だと思っている。
小学校中程から帰るときは大概一人、帰っても一人暮らしで誰も居ない。
故に孤独の味を知っている為確かに非リア充に見えるのだ、が。

「遅いぞ、宗谷。
我を待たせるとは貴様はいつからそんなに偉くなったのだ?」
その声のする方に彼が目を向けると、一人の魔物が腕組をして立っている。
彼女の名前はシルファ・ムル、種族はドラゴン。
彼女こそ、彼が隠れリア充たる所以でもある。
彼女は宗谷が通う大学の同級生で、二人は校内でも結構な評判だ。
「お前が勝手に待ってただけだろ。
大体約束もしてないのに待つも待たせるもあるかよ。」
「何だと!?我は今日昼休みに言ったであろう!
今日の祭りに一緒に付き添えと。」
「一緒に付き添えだって?
・・お前な、自分勝手に記憶を改竄するんじゃねえよ。」
「我が何か間違った事を言っているとでも?」
シルファの言い草に溜め息をついて顔を顰める宗谷。
それもその筈だ、彼にシルファがかけた言葉は酷いものだったのだから。

「何なら一言一句違わず言ってやろうか?
『今宵祭りがあると小耳に挟んだのだが、貴様は行くのか?
そうか貴様は行くのか、ふん、まあどうせ貴様の事だ。
一人で歩いて行くのだろう?全く寂しい事だな。
・・ふっ、何を怒っている、事実を述べただけだろう。
まぁあれだ、貴様が寂しいからついて来てくれというのならそうしてやらん事もないぞ?』・・だ。
これのどこがどう考えたら、一緒に付き添え、になるんだよ。」
宣言通り一言一句違わず言って見せる宗谷。
そんな事をしてのける時点で相当頭に残っていたのは確かだ。
「ふむ?どちらにせよ同じような意味ではないか。
貴様が寂しいというのだから我が付き添ってやると言ってるんだぞ?」
「別に、寂しいなんて言ってねえよ。
・・というか、さっさと行かないと出店の商品売り切れるから俺急ぐわ、じゃあな。」
だが生憎と彼はツンデレが通用しない男だった。
「な!?く・・待て宗谷!」
取り残されまいと早歩きで宗谷に近づくシルファ。
対して宗谷は嫌そうに溜め息を吐きこそすれ、それ以上スピードを上げる事はしていない。
程無くして追いついたシルファに、心底面倒くさそうに宗谷は言った。
「・・何だよ、俺がそんなに寂しそうに見えるか?
大丈夫だ、俺なら寂しくないから急ぐんだったらさっさと行けよ。」
そこで言葉を切って、意地の悪い笑みを一瞬浮かべ続ける。
「まさか昼間あんなことを言ったお前が、
本当は寂しいから誰かに付き添ってもらいたいなんて訳でもないんだろ?」
その言葉は、彼が思っていた以上にシルファに効果覿面だった。
「そ・・そんなわけ無かろう!
我はあくまでも!貴様が寂しいんだったらと・・!!」
「へえー・・寂しさから誘った訳じゃなかったらシルファは付いて来てくれない訳か。
・・人付き合い悪いのな、お前。」
にやにやと楽しそうに続ける宗谷だったが・・

「そんな事は・・ん?
要するにやはり貴様は我について来て欲しかった訳か?」
ドラゴンの思考能力は宗谷自身の隠された本心に気付く。
大事な部分は率直に訊く彼女の性格も合わさって、
その言葉は先程の言葉以上の攻撃力をもって彼に跳ね返ってきた。
「・・違えよ、何でそうなるんだ。」
照れ隠しにぶっきらぼうな言い方をする宗谷。
しかしそれをシルファ相手にしてしまったのが運の尽きだ。
「何故と言われても貴様自身が言ったではないか、
寂しくなければ付き添ってはもらえないのか、と。
あれは、寂しくないときに誘っても駄目なのではないかという不安の現れではないのか?」
ドラゴンの高い知能と教養、それと彼女自身もそうである事によって
紡ぎ出されていくその言葉達はいちいち宗谷の心にクリーンヒットしていく。
だが彼自身もまた素直でない為、この期に及んでまだしらを切った。
「なっ・・そんな訳ないだろ、むしろお前の方だろそれ!」
「ああ、我はそういうところがある。
だがそうも焦るところを見ると、あながち外れてはおらぬのではないか?」
だが付け焼き刃での反撃などたやすく防がれてしまう。
「いつもの貴様であったのならば、斜に構えて何事もなく受け流すはずであろう?」
続けて放たれる追撃に宗谷は一番の下策に出た。
「・・もう別に良いだろ、そんなことは。
それよりも、さっさと行くぞ祭り。」
話を強引に打ち切ったのだ。

それっきり彼は口をきかずに走り去ろうとしたのだが、

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