「ほらほらどうしたぁ!こっちはたった四人なんだよ?
そんなに数を揃えてんだ、ちったあ気張りな!」
コトレーク東門、教団野営地付近。
教団は打って出てきた四者相手に防戦一方となっていた。
いや、セレとそのマスターが欠伸なぞしているのだ、
もはや戦いと表現してよいものかどうかすら怪しい。
しかし、教団にとってどれほど蹂躙されようとそれは恥辱ではなかった。
何故なら、今こうしている内にも西門近くの平原では
竜殺しと狂炎とその妹を同時に始末する作戦が展開されているからだ。
もとより、この東門での戦いはそのための時間稼ぎだった。
野営地を設けたのも、かの街の連中の目を引くためで、
本気で攻め込めると思っていたのではない。
そして、蹂躙されるばかりだった教団は
ある報せを聞き一様に心中でほくそ笑んだ。
それは「狂炎の妹と竜殺しが闘いを始めた」という報せで
つまりこの作戦の成功を意味していた。
既に狂炎は捕らえているし、残りの二者は生き残った方を始末すればいい。
軍で取り囲んでいるのだ、誰かが助けに入る暇もない。
よって、この作戦は完全なるものなのだ。
そんな考えを教団の誰もが持っていた。
所変わって東門前の高原。
狂炎の妹、シェリス・ブレーンは剣を振るっていた。
袈裟に振りおろした剣を次に繋げるべく、
地を這うようにこちらへ向かって滑らせ持ち上げる。
しかし相手の竜殺し、ファルフ・ヴーニルは
そんな細かい動作さえも見逃さず切り込んできた。
「っ・・!」
舌打ちをしつつ、重心を下げ衝撃に耐える。
単純な力のぶつかり合いにおいて、
かなり優位に立っている彼女相手の打ち合いは、
ファルフにとってお世辞にも得策とは言えない。
だが、シェリスは知っている。
彼はそれを分かった上で、この戦法をとってくれていることを。
そして、その原因は彼女の不覚によるものだということも。
シェリスの姉ゼルナ・ブレーンを助けたければ、
ファルフを殺せと教団に告げられたとき、
呆然とする彼女に助け船を出したのは、他ならぬファルフだった。
そのとき彼は彼女に目で、俺達を信じろ、と言った。
(疑うつもりは無いが・・どうする気なんだ?)
この状況から抜け出す手段はないように彼女には思えた。
周囲には幾多の教団兵士が居て、弓矢を構えているものもいる。
これでは、あまり長引かせることは出来ない。
無粋な教団の兵が、疲れた彼女達に攻撃しないわけがないからだ。
一応、ファルフは加減をしているし彼女も合わせてはいる。
だが真剣に闘っている風を装う以上、体力は奪われていく。
だから長引かせるのは得策では無いはずなのだ、
と考えていると、あるものが視界に入った。
大きな翼を広げて滞空しているワイバーンだ。
ついそれに気を取られた一瞬の間をおいて、ファルフに意識を向ける。
そこまでして彼女は違和感に気づいた。
自分がさっき、気を取られている間に
何故ファルフは切りかからなかったのだろうか。
不思議に思いつつ鍔迫り合いの際にファルフの目をのぞき込むと
彼の目は、ワイバーンの方を見て笑っていた。
ここで彼女はふと思った。
竜殺しとは、竜の友なのではなかろうかと。
そう考えるとあのムウというワームが笑っていたのも辻褄が合う。
第一、親魔物領で本来の意味の竜殺しが生活できるはずがない。
だから彼女はそれを確かめるべく叫んだ。
「その程度か!竜殺し!
ワイバーンやドラゴンの力があるのではないのか!」
瞬間、何を言うんだと言いたげな表情を浮かべたファルフだったが
シェリスの思うところを理解したようでニヤリと笑った。
「生憎と、俺には気紛れにしか力を貸してくれねえよ。
あーあー!こんなことなら、ワームも倒しとけば良かったなあ!」
大声でそう愚痴るファルフの態度に、
教団の者は何事かと目を見開いている。
対してシェリスはクスッと笑ってしまった。
「クウッ・・フフ・・ハ、ハハハハッ!!」
そしてその頼みのリーヴェも、笑っていた。
誰も聞いていない大空の中で大声を上げて。
「フゥー・・ッ!!は、はっ、ふう・・!!
あの言い方はないだろう・・!くく、はぁ・・はぁ・・」
精神を集中させて感覚を研ぎすましていた彼女には、
上空にいてもファルフ達の言葉が一言一句全て聞こえている。
だからファルフの行った行為は、
リーヴェに意志を伝える工夫という点では無意味だ。
ともあれ、彼の思惑を理解した彼女は今こうして
高速で西門へ向かって飛んでいた。
「よし・・ムウを頼ればいいんだよな。
あの言い方では、私やエルダが出ていっても効果は薄いだろうし。」
呟いているうちに、西門へ着くリーヴェ。
着地するとすぐにエルダとムウが近寄ってくる。
「リーヴェ、ヴーニルの様子はどうだ?」
「ファルフは、大丈夫なの?」
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