私はラウ・リーサ、ケンタウロスの戦士だ。
「ラウ、夜訓練とは精が出るな?」「当然だ、戦士としてはな」
夜の鍛錬は好きだ。
体中がすっとして自分自身が研ぎ澄まされていくのを感じるからだ。
話しかけてきた彼女はリザードマンのリア・ズール。
互いに武人気質なのもあってか、鍛練はいつも一緒だ。
そのほかにも似ている点は多い。
例えば、料理が達者だったり騎士団に繋がりがあったり。
違う点と言えば・・伴侶だ。
「すまないね、今日は夫が中々放してくれなくて・・」
「・・そうか、鍛練は本気が望みか・・」「な・・怒らないでくれ!」
全く、人の苦労も知らずに惚気話をして!
私にだって好きな人くらいいる。
ただ・・想いを告げるのが少し怖いだけで・・
「そうそう明日の村祭りだが、恒例の決闘がメインイベントだ。
まぁこっちからは、お前が選ばれた事は知っていよう。
そして・・ふふ、驚くなよ?
あちらからは・・シュン・ナンジュが出るらしい。」
「な・・本当か!?シュンが出るのか!」
シュン。
何時だったか、村を私と共に守ってくれた男。
その時私は恋をした。
彼の強い瞳に、はにかむ笑顔に、そして居眠りをする姿に。
しかし私は奥手、いや単なる臆病であった。
想いを告げられぬ間に彼は帰って行ってしまった。
しかし、彼は隣村に腰を落ち着け暮らし始めたのだ。
今度こそ、この想いを打ち明けてみせる。
決闘の後には、好きな言葉を叫ぶことが出来る。
その時に、叫んでやるのだ、大好きだと。
「じゃあ、勝たなくてはな。」「だがもう寝た方が良い、体に障るぞ。」
それもそうか、と言葉を返し私は自らの家に戻りベッドに突っ伏し、目を閉じた。
そのまま、体は眠気にあらがうこと無く動かなくなる。
しかし、気持ちは依然昂ったままであった・・
だが突っ伏していれば眠れるもので徐々に意識も闇に落ちていった。
次の日・・祭りは大盛況である。
特にヤタイというジパングの文化を真似た売店は繁盛し途端に売り切れた。
売り切れたあと、男の店員が
「じゃぁ、貴方を貰うわ!お代は私の初めてで!」
と言われて襲われていたが、まぁ満更ではなさそうだったので良しとしよう。
そして・・ついにこの時が来た。
「さぁ・・メインイベントじゃ!恒例の決闘劇を始めるぞい!」
ステージで長老のバフォメットが高らかに宣言する。
それに応え、観衆から
「うぉおおおおおおおお!」とか「バフォ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
だのと歓声が湧き上がる。
「うむうむ、分かるぞ!そして、このステージを盛り上げるのが・・
まずはウチからはラウ・リーサじゃ!」
またもや、「うおーっ!」と声が上がる。
「そして、シュン・ナンジュじゃ!」
すると今度は一変、「えっ、あのシュン?」「シュンって強いの?」
と疑問の声が湧きたつ。
それもそうだろう、彼はあまり殺し合いは好まない性格だから。
「あー静まれ〜・・では試合開始じゃ!」
「久しぶりだな、シュン。」「そっちこそ、じゃあ行くよ!」
言葉の柔らかさとは裏腹に、剣と盾を構え突っ込んでくる。
そうだ、この時を待っていたのだ。
両手に持った剣を上下に構え、シュンを待つ。
「はあぁっ!せっ、とぅ!」「ふんっ、はっ、ていッ!」
盾と剣を組み合わせた連係攻撃が迫る。
しかし私とてその程度で折れはしない。
なんとか凌ぎつつ、隙を探す・・在った!
盾を持つ手が震えて、顔をしかめる彼に剣を振り下ろす。
彼は盾で受け流そうとするが、ついに盾は場外へと弾き出された。
「・・取りに行け、シュン。」
「・・それは盾が無い僕じゃつまらないから、かい?」
「そうではない、お前の全力が見たいからだ。」
「・・全力・・か、分かったよ。」
そう言って彼は剣を、両手で上段に構えた。
私は、訳が分からなかった。
「どういう事だ、シュン!
今この場でふざけるつもりならば、その首叩き斬るぞ!」
しかし、シュンは・・
「次の一撃で、勝負を決めようって言ってるんだ。
正直、持久戦じゃ君には勝てっこない、だから・・」
そして真っ直ぐに私の眼をその強い瞳で見据え、静かに言い放った。
「この勝負乗ってくれるかい、ラウ?」
言う彼の体は少し震えている。
それは彼の言葉が、単なる駆け引きの言葉では無いことを示していた。
それほどの覚悟、応えなくては笑い草だ。
剣を片方捨て、私も同じように構えを取る。
「良いだろう、行くぞシュン!」「ああ!これで決める!」
二人同時に地を駆ける。
剣には気合を乗せて、体には覚悟を込めて。
もはや観客達も呻き声一つあげられなくなっていた。
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」「でぇぇぇぇぇぇぃ!!」
そして私と彼・・二つの剣が、覚悟が交差し・・
一筋の光が空を舞う。
その光は幾度か回転したのちに地面へと突き刺さった。
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