…かわいいやつだ

「…えっ?」

私は、騎竜候補ではない。

そう伝えた瞬間目の前の青年は絶句した。
その顔は正直、哀れにすら感じるほどだ。
…だろうな。
それが私の感想だった。

「言ったとおりだ、私は騎竜候補生ではないんだよ。」

が、聞き違いにされてもう一度聞かれるのも面倒くさいのでもう一回告げる。
すると青年…ガーレイだったな…はやはりショックを受けた顔をした。
まぁ、若気の至りでここに来てこれでは、そうもなろう。

「そう…なんですか…」

しかし、私はここでおっ?となる。
意外にこの青年が、事実を受け止めていたからだ。
無論先程の悲しそうなままではあったが。
…意外に、冷静な所もある、か。

「まぁ、そうだな。」

相槌を打ちつつ、私は考える。


…ここに彼を紹介したのは、ラスティだったな。
私の昔からの友達かつ飲み仲間。
掴み所のない笑みをいつも浮かべている、飄々男。
しかしながら考えなしには動かない。
何かをするときは、絶対に幾らかの算段を持ってやる男だ。
…となれば、今回も何か意味があると見ていい。


「じゃあ、あの、あんまりここにお世話になるわけにはいかないですね…」

と、ガーレイがそう言う。
言葉通り申し訳なく思っているのが分かる顔だ。
確かに、私がここでお世話にならせる意味も理由も無い。
…普通ならば。

「いや、構わんよ。」

そして私は普通ではない。
この際、この青年にとって幸か不幸かは置いておくとしよう。

「え、でも…」
「遠慮などするな、そんなことをしたところで他にあてもないんだろう?」

遠慮するガーレイ。
だが私は離れることを妨げた。
これがラスティの意図であることに付け加えて、あることを思い出していたからだ。

…それはこないだラスティと飲んでいた時のこと。


「ねぇ、シェール。
竜騎士とか興味ない?」
「ん…っ…ん、ああ…いや、あまり興味はないな。」
「けど、彼氏とかは欲しくないのかい?」
「彼氏か…まぁ、確かに欲しくはあるが。」
「だったらもっと毎日街に出なよ、こんなところで篭ってないでさ。
君は美人なんだ、引く手数多だと思うけど?」
「んー…っく。
そうガツガツと来られてもなぁ…私は静かなのがいい。」


『確かに欲しくはあるが』
私があの時ああ言ったから、ラスティがここに連れてきたとしたら。
そう考えれば全てに納得がいくというものだった。

「…え、ええっと…」
この青年が、あまりうるさそうなやつじゃないのも。
ラスティが私にこいつを紹介したのも。
そして…住まわせることを提案したのも。

「んーそうだな…」
それを踏まえ、考える振りをしつつ改めてガーレイを見てみる。

まず思ったのは、優しそうな目をしているということだった。
皺がそこそこの気持ち縦長の顔と合わさって、
若々しさと少しばかりの未熟さを演出している。
一言でいえば…まさしく青年というところか。
体つきは机の下にあって今は良く見えないが、
先程話していた時に見たものはまぁまぁ悪くなかった。
まぁ魔物娘にとってあまり大切でない所だしこれはいいだろう。
肝心の性格は…人並みの遠慮、思慮、それに、あまりうるさくもなく。
事実を受け止める落ち着いた部分もあったな。
堅苦しく思えたところもあるが、まぁ初対面故の緊張もある。
若々しくて微笑ましいそれは、慣れてくればどうにでもなるものだろう。
ふむ…他の奴の臭いも…ついていない。
誘惑の一つ二つはされたかもしれないが、それでもお手つき無しのいい匂いだ。
と考えるうちに、こう至る。

このガーレイという青年…私にとって、かなりの上物だな?

「うん…」

そう思った途端、私の心は変わった。
泊めると言った手前とりあえず面倒は見てやろう、から、
なんとしてもこの青年をモノにしてやろう、へと。
そして、そう思うと全てを活用するために頭が働くものだ。

「…竜騎士になるのならワイバーンと触れ合っておくのも悪くはないだろう?
付き合い方を覚えておく、後々のための経験値だ。」

そう、こんなことを咄嗟に言ってしまえるくらいには。

「え…まぁ、確かにそう、ですけど…」

歯切れ悪く答えてくるガーレイ。
正論のように感じる部分と、申し訳ないという部分の間で葛藤しているのだろう。
だが…人間というもの、易い方都合の良い方へと傾きやすいものだ。
事実彼の言葉には、
「頼れるなら、頼ってしまおう…かな…?」
というような雰囲気も薄ぼんやりと漂っている。

…ふ、後一押し、か。
口の端が持ち上がりそうになるのを内心のみに留める。
さて、となれば後は…

「それにな。」

私は体を無意識に持ち上げ、顔をガーレイと至近でつき合わせる。
とある事をするためだ。

「え、えっ…?」

狼狽するガーレイ。
私のそれと交わ
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