…夜。
自分が何もしない、なんというか静かでいい空間。
静かな闇の中にぼんやりと浮かぶ月を眺めながら、
ゆっくりとした時間をベットの上で過ごす時間。
俺にとって、最も過ごしやすい環境である。
「良い夜ね、ガウル?」
ましてやそこに、俺が一番傍にいて心地の良い存在であるワイバーン…
レイ・ジクスが居てくれるとなれば、もはや何も求める事などないくらいだ。
「…ああ。」
レイの言葉に短く答える。
それだけで、十分伝わるだろう。
そう思いながら。
「そうね…本当に、良い夜…」
すると俺の後ろにいたレイは、そう言う。
ゆっくりと近づいてくるその声はどこかうっとりとしていた。
…何か、良いことでもあったのだろう。
「だって…あなたに近づいても、照れないでくれるんだもの。」
と思っていると、スッ、と背中に重みがかかった。
女性に対して重みというのは少々あれだが、俺はこの重みが気に入っていた。
この重みが、彼女の存在の重みだと分かっているからだ。
「…そうか。」
再度短く答える。
やや、頬が熱い。
背中からくる甘い香りと柔らかさが、そうさせている。
思えば、先程放った声からも些か照れが漏れていたかも知れない。
「…なぁに?やっぱり照れてる?」
やはりそうだったようで、レイは語尾を上げてきた。
俺の首の横から翼を差し入れ、肩に顔を乗せながら。
「だったら何だ。」
そのからかうような言い方が少し気に入らなかったので、
これ見よがしに悪態をつき、そう返す。
その際目に入った彼女の顔が安心しきったものであるのを確かめてからそれをしたのは、言うまでもない。
「うぅん?別に、どうもないわよ?」
しかしながら、余裕の声でそう言ってくれるのを聞くと、
俺はやはりホッと胸をなで下ろしてしまう。
どれだけそうしてみせようと、レイが悲しい顔をするのは嫌なのだ。
…なら、それをやめればいい、となるのだが。
「でも…そうね。
あなたと居ると面白い、かな?」
だがこうしてレイがからかうのをやめない以上、
俺としてもやめるのは何だか負けたようで嫌なのだった。
…
「面白い?…それは流石に冗談と分かるぞ。
良く人付き合いがあまり良くないと言われるからな。」
だから、こうしてスカした態度をとり続ける。
今回は本心だから尚更だ。
「…そう?私は、面白いけど…」
「くどいぞ。」
続けようとするレイをそう制する。
イジらせないためには、手段を潰すのが一番だ。
「…ほんとぉ、に?」
しかしレイはやはり一枚上手だった。
ぶっきらぼうに断ち切った俺の耳に口を寄せ、囁いてきた。
しかも、翼の爪先で俺の胸をひっかくように触れながら。
「っ…レイ…!」
してやられた、という思いと、
耳にかかった息とそこからの匂いがいつも以上に心地よかったのが合わさり、
怒った風に彼女の方を見る。
「ふふ…やっぱり、面白いじゃない?」
レイは、それさえも楽しさだというように微笑んでみせた。
…呆れた奴だ、知ってはいたが。
「意地の悪い奴だ、本当に。」
「そうかしら?」
「そうだ。」
が、その意地の悪さは居心地の悪さではないのも知っている。
流れを切って、黒々とした中に浮かぶ月に視線を移しつつそう心で続けた。
「…へぇ?やり返さないんだ?」
そうしていると、レイが俺の横にその顔を持ってくる。
横目で見るとそれは、笑みを浮かべて月を見ていた。
…どこまでも、余裕な奴である。
「やり返して欲しいのか?」
訊いてみる。
無論、答えが返ってくるとは思っていない。
来たとしてもどうせ、一つ捻った答えだ。
「やってみる?」
ほらこれだ。
御丁寧に月を見たままとは、恐れ入る。
まぁ、元よりやり返すつもりなど無かったのだが。
「…いや、良い。」
そういうわけで、俺もそう言って話を切る。
そして輝く円形へと再度視線を移す。
そう、円形。
空に浮かぶそれは、見事な満月だった。
円と言えば、円満だとか大団円だとかに使われる。
他にもあるだろうが、これをレイを一緒に見られるというのは最上の幸せというものだろう。
何せ満月…円、満ちているのだ。
こじつけくさいが、個人で考えること、それくらいが相応しかろう。
「…ねぇ、ガウル?」
と、突如レイがそう声をかけてくる。
甘えるように感じられたその声に顔を向けると。
「…月が…綺麗ね…」
レイは、そう言ってきた。
…確かに綺麗な満月だ。
俺があんなこじつけを考えるくらいには、綺麗だ。
「そうだな…」
言ってから、だが口に出すことか?と思ってしまう。
率直な意見とはいえ、失礼である。
…と。
「ふふ…」
「…レイ?」
彼女は、意味深にそう笑んで見せてきた。
何度か見たことのあるそれとはいえ、今やる意
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