秋…それは、夏から冬への過渡期。
とはいえ、ただの中間地点ではない。
物静かな雰囲気を数々の実りによって彩る、そんな季節。
そして確実に、夏から冬へと向かう兆しを感じさせる、そんな季節でもある。
薄着でも蒸し暑くてたまらかったあの頃から、冷房をかけるのは風呂上がりで十分になって…
夜長い間ゲームをしていると寒さで操作が鈍くなってくる、そんな感じの。
「…っ…」
布団内でもぞりと動く。
時計は就寝前のトイレで見た時、分針と秒針が丁度12をさしてたっけか。
大学生が寝るには少々遅いかもしれない時間…
しかし明日は休日なのだし、どれだけ遅く起きようとまぁ問題はない。
…じゃ、何が問題なのか。
「…寒ぃなぁ…」
それはこの、身を震わす寒さである。
この前取り替えたシーツが、冷たくすべすべした材質のものである故…
「…ふ。」
も、あるけれども俺がめんどくさがって短パンと半袖のままなのが一番の理由かもしれないな。
そう思って一人で苦笑い。
だがここからわざわざ長いズボンやらを取りに行くのも、また億劫だ。
…このまんま寝るか。
幸いにして布団はふかふかのそこそこ厚手、シーツさえ体温で暖かくなれば…
「…やっぱりまだ起きてたね、良輔。」
等とぼんやりとした考えを巡らせていると、突如として寝室のドアが開いた。
布団に入っているためそれをした主は見えないが、声から察するに翼だと分かる。
翼、大学生で…まぁ、ざっくり言うと俺の彼女。
ついさっきまで一緒に深夜までゲームをしていた、俺より少しだけ背の高い女の子である。
眠くなってきたので、俺がお先に寝室へ行ったというわけだ。
「…ん、んんー…」
彼女の声に、寝たふりで答える。
「…なに、寝たふり?」
帰ってきたのは、笑い混じりのやや呆れたような声。
きっと、呆れ顔で腕組みなどしているのだろう。
姿は見えないが、俺にはその様がはっきりと想像できる。
「…」
さておき、それにも寝たふりを続けてみる。
どの道このまま眠るつもりだったのだ、問題はないだろう…やや冷たい気もするが。
「へぇ…そういうこと、するんだ。」
と、彼女がその声と共に歩いてくるのが聞こえた。
もしかして、のぞき込んでくるのだろうか。
それは…ちょっと恥ずかしいな。
「…よっ、と…」
などと思っていると、そんな声が聞こえた後に、やや遅れて軋むような音が耳に入ってきた。
同時に沈み込むような感触があったし…どうやら翼が、ベッドに上がってきたようだ。
「…」
…どうしようか…
俺は冷静に考えつつ、別の部分ではやや焦ってもいた。
翼は落ち着いた所があるが、基本的には積極的だ。
そんな彼女が俺の寝るベッドに上がり込んできて、何もしない訳がないからだ。
何をされても別に良いし、元はと言えば冷たい行動をした俺が悪いのだけど。
「…さって、と…どうしようかなぁ?」
翼が、つぶやくように言葉を放つ。
独り言のように聞こえるが、その言葉には間違いなく俺へのメッセージが篭められていた。
すなわち、このまま狸寝入りを決め込むつもりなら何かしてやるぞ、と。
「…」
無言のまま、静かに焦りを募らせる。
正直、ピンチである。
ゲームで例えるなら、次の行動を貰えば即死ないしは壊滅…
であるのにそれがなんなのか分からない。
そして分かってもきっと対処出来ない行動であろう予感もしている、そんな感じの。
そして、この場にコンティニューという選択肢も当然、あるはずはない。
「…ふぅ、なーんだやっぱり寝てるのかぁ…」
そんな俺の心持ちを知ってか知らずか、翼は着々と準備を進めていく。
…もはやこれまでかな。
「…んぁ…なんだよ、折角人が寝ようとしてるのに…」
そう思い、出来る限り眠い風を装ってぼやきつつ、布団をめくって起き上がる。
その先に見えたのは、彼女の姿。
窓からの夜の光と空気清浄機の青いライトに照らされ、ふふっと柔らかく笑っていた。
その身に、衣服と呼べるものは何一つ身に付けておらず、
その代わり、各所各所を覆う鱗が衣服の役割を果たしている。
後ろの方で先程からくねっている細長い鱗の塊は、尻尾だ。
腕と呼ぶ部分の先には普通あるはずの手がなく、爪があった。
加えて仰々しい翼が、腕の周りには畳まれている。
広げればどれほどの大きさになるのだろうという代物だ。
…そう、翼は人間ではなく、ワイバーンなのだ。
「ん、ふふ、ごめんね、起こしちゃった?」
それはさておいて、彼女はこう言ってくる。
謝る言葉だが、こちらの思惑を全て読みきった上でそう言っているのが分かる…
そんな優しくも妖しい笑みを浮かべながら。
「…良いよ別に。」
…全て、見抜かれている。
そう経験から悟った俺はこの言葉を口にする。
とりあえず話の流れを切ろうという魂胆だ。
「そっか、良かった。」
狙い
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