素直じゃない蛇、過ぎる馬鹿

反魔物領より少し離れ、親魔物領よりも少し離れた所にある洞窟。
そんな洞窟の中佇む男が一人、その名をストーレ・トリアという。
早速だがこの男、実は動けない状態だ。
何故なら隣で呆れているメドゥーサ、ファリス・ピリーに出会ったから。
とは言っても、恐怖で動けないのでも無ければ足をくじいたりした訳でもない。
ならばどうして彼は動けない状況にあるのか。
それは至極簡単で・・馬鹿らしい理由だった。
時は数瞬前に遡る。


「さて・・今日は何を見つけることが出来る・・?」
いつものように装備を整え、洞窟探検に勤しんでいたストーレ。
彼はそれなりには腕の立つ冒険家で今は何でも屋を営んでおり、
かつては勇者だのともてはやされたこともある。
しかし彼の性格上、それも長くは続かなかった。
偏見に塗れた言い方をするならば、
そもそも勇者というのは反魔物国家から見た救いの主の事だ。
だがストーレは、少なくとも魔物と戦いたい訳ではなかった。
どちらかというと、交流する方だったのだ。
そのことで過去色々あったのだが・・ここでは割愛させていただこう。

さて、彼は洞窟を少し進んだ所で綺麗な石を見つけた。
と言っても、宝石と言えるような代物ではなく例えるなら・・そう。
子供が河原で大事に取っておくようなそんな石だ。
「よし・・これは良いものを拾ったな・・。」
彼はそれを持っていたポーチに入れると満足げに頷いた。
しかし次の瞬間・・ファリスに見つかってしまう。
彼女は住処を荒らされていると感じて寄ってきたのだが、
その様子を見るとつまらなそうに去って行こうとした。
別段敵意を感じた訳でもなく、
無闇に目を覗かせて固まらせる訳にもいかないから。
しかしストーレはまるで全身を雷が駆け巡ったような感覚を覚えた。
ファリスの事が気になって仕方がない。
(何という可憐な・・目を合わせることも無く去って行くのもいい・・)
・・そう、もうお解りだろう。
ストーレはファリスに、俗に言う一目惚れをしたのだ。

「待ってくれるか!」
突然掛けられる大声に、多少ビクッとしながらも止まる彼女。
その顔は不機嫌そうだった。
それもそうだろう、いきなり住処に入って来られた人間に呼び止められたのだ。
その不機嫌な顔を崩さず、目を合わせず言う彼女。
「・・何よ、用事かあるならさっさと言って欲しいんだけど?」
そして彼は用件を言った。
「何故・・君は私と目を合わせようとしない?
普通、目を合わせて話すものだろう?」
「アンタね・・見れば分かると思うけど、私はメドゥーサよ?
メドゥーサって種族は目を合わせると石化させるのよ。
だから、その・・無闇に石化なんてしたくないでしょ?ここまで言って・・」
なんとか嫌悪感を引きだし、返って貰おうとするファリス。
しかし、次に彼はとんでもない行動に出た。
「成程!君は私を石化させたくなかったのか・・
何という優しさだ・・だが、私に遠慮はいらない。
正直に言おう、私は君に一目惚れをした!故に石と化そうと構わない!」

なんとわざわざ彼女を下から覗きあげ・・そのまんま石と化したのだ!
「ちょ・・!!バッカじゃないの!?この男・・!
だ、大体一目惚れって・・わ、私に一目惚れって・・。」
彼の突然すぎる言葉に戸惑う彼女。
それもそうだろう。
あしらおうとした言葉の返しがそれなのだから。
「どうしよう・・解除出来るけど・・いやでも・・
あんなことまた言われたら恥ずかしいし・・
でも、解かなきゃ帰って貰えないわよね。
あ、解いたお礼に一つ頼んでみようかな・・。」
迷いに迷って結局解く事にした彼女。
制御できない訳ではなかったし・・それに嬉しかったからだ。

「おお、戻った!成程・・確かに、これは厄介ではあるな・・。
君の瞳を見続ける事が出来ないとは・・!」
戻った途端に、懲りた様子もなく項垂れる彼。
戻してもらって第一声がそれなのか、固まった事への恐怖は無かったのか、と呆れる。
しかしそんな態度を取っていても・・彼女は少しだけ、この馬鹿に興味を持ち始めていた。
「あの、あなたさ・・ここに、結構来たりしてるの?」
その真っ直ぐすぎる目と合わせないように、視線をずらしながらストーレに問う。
「ん?ああ、かなりの頻度で来ているな。
何せ、私は街で何でも屋をやっているし、
ここには綺麗な石や壊れた武具など役立つものが多いからなぁ・・。
反魔物領に近いと分かっていても、ついつい来てしまうんだ。」
ただそれだけなのに、表情をクルクルと変えて話す彼に
ファリスは不思議そうな顔をして訊いた。
「え・・武具はともかく、石なんてどんな風に使うのよ。
ここに落ちてる石は、湿ってて火打石になんてならないわよ?」
対して、そんなの決まっている、と答えるストーレ。
「必要とする者がいるんだ。
例え
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