ホワイト・デイ
俺がこの町に来てからしばらく経ったある日、
俺は珍しくギルドで軽い酒を飲んでいた。
ミルナの所へ帰ったら、
「あ、す、すいません!今は、駄目なんです!本当に、ごめんなさい!!」
などと追い出されてしまったからだ。
しかも理由を聞いても、
「え!?いや、その、とにかく駄目なんです、ごめんなさい!!」
こう返されるばかり。
・・そう、いつも飲まない酒を飲んでいるのはそういうわけでもあった。
「いつもお疲れさまね、グロゥ。
この頃、頑張ってるらしいじゃない?」
「ああ・・まぁ、こっちに慣れてきたというやつだ。」
「依頼」が終わり、一息入れる俺にナナキが近づいてくる。
彼女に紹介される仕事は外れが無い。
少々辛いこともあるにはあるが、無理難題という訳ではなく、
やりがいのある仕事ばかりであった。
彼女は続ける。
「そうそう、期間限定で紹介したい仕事があるの。
報酬の方もそれに伴って特別仕様になっているわ。」
特別仕様。
彼女の言葉の中にあったその単語に、否応なく反応してしまう。
特別といえば割増しであったり、それこそ何か特殊な物が手に入るからだ。
割増しであったならば、ミルナに何かプレゼントが出来るやもしれない。
特殊なものでも、もしかしたらミルナが気に入る可能性もある。
それに加えて、ナナキが紹介する仕事、という要素が、
さらに俺の興味を引き反射的に聞いてしまった。
「その仕事、今から保留しておくことは出来るか?」
俺の反応の速さが尋常ではなかったからか、彼女は苦笑しつつ続ける。
「食い付きが速いわね、そんなに気になるかしら?
ふふ、心配しなくてもこの依頼は、あなたで確定しているわ。
何せ依頼者があなたをご指名してるんだもの。」
「名指しか・・またああいう類のものでなければいいんだが。」
ニヤニヤする彼女とは反対に、少し前に受けた思い出し溜め息をつく。
その依頼も俺を名指しで送られてきたものだった。
依頼内容は至極簡単で、教団領内の湿原に掛っている橋まで
荷物を運んでほしい、というものだったのだが、俺とあちらの解釈は違った。
俺は文字通り「荷物」を持ってきたが、あちらの想定した荷物とは、
俺の「命」であったのだ。
橋の中程に差し掛かった時、5人に挟み撃ちされてしまった。
幸い、この5人がそれ程の使い手では無かったことと、
空にワイバーンが、下からワームが出て来てくれたおかげで事無きを得たが。
それ以来、俺を名指ししてくる依頼には俺を名指ししてくる依頼には
ナナキ共々警戒を払っているのだ。
「その件に関しては問題ないわ。
エメラルダの関係者にきちんと裏を調べさせたから。
それに、直々にあっても来たし・・だから大丈夫よ。」
「そうか・・ナナキがそこまで言うんなら問題ないか。」
彼女は、魔物の中でもかなりの力を持つエキドナだ。
それにギルドマスターという、人を多く見る立場についている。
つまり彼女が信用できると思うのならば、俺が疑う必要はない。
そう思い、飲みかけの酒をまた少し呷る。
喉に冷たい感触が通り過ぎるのを感じながら、次の質問をした。
「じゃあ、仕事の内容と依頼者の名前を聞かせてくれ。」
そう言うと、彼女は手を顎に当てつつ言う。
「仕事内容は、秘密にしてくれって言われてるの、ごめんなさいね。
依頼主は明かせるわ、でも驚かないでね?ふふ・・なんと、ミルナちゃんよ!」
「な・・!!ミ、ミルナ・・だと・・!」
あまりに予想外の名前に驚く。
先程は驚くなと言われていたが、これは驚くなというのが無理なレベルだ。
しかし・・ミルナが俺に頼みたい事とは何なのだろう。
ミルナが荷物運び系列の依頼を出すとは思えない。
家事を手伝って欲しいなどという依頼の可能性もない。
護衛方面の依頼などは言うまでもない事だ。
ならば、一体ミルナは何を・・?
謎は考えても考えても解ける雰囲気はなく、
それどころかどんどん深まって行くようにも感じられた。
無言で考えていた俺を見かねてか、ナナキは腰に手を当てる。
「あのねぇ・・そんなに考え込んだところで答えなんか出やしないわよ?
それでこの依頼、受けるの、受けないの?」
「・・内容はどうあれ、ミルナからの依頼であるならば受ける。
あいつの力になってやれるのであれば、断る理由もないしな。」
俺がそう言うとナナキは口元を抑え、さもおかしそうに笑った。
その様子が何やら馬鹿にしているように見えたので、つい文句を言ってしまう。
「・・なんだ、何か俺は可笑しいことを言ったか?」
そう言うと彼女は笑うのを止めたが、目を見るとそこには未だに笑っていた。
「ふ・・ごめんなさい、あなたがあんまり言うものだから。
それにしても・・ミルナちゃんの事、そんなに大切に思っているのね?」
「・・一緒に住んでいるな
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