闘争の果てに

「・・・・」
独房じみたこの場所で一人瞑想を行なっている男が一人。
彼こそは、今この闘技場で一番の話題となっている男。
名を、エクシア・ウィンダム。
この魔物達も参加する闘技場で唯一と言っても良いほどの真人間である。
彼は、たった一人で教団と戦っている途中に、
雪崩込んできた魔物たちによってなし崩し的に祖国を奪われた。
(と言っても彼は悪くは思ってないようだが)
彼の戦績は25戦中10分け15勝という凄まじいものだ。
時には魔法を、時には剣、またある時には
肉体や頭脳を使い勝利を収めている。

ふと、瞑想を続ける彼のこめかみがぴくりと動く。
次にそばにある扉を見ながら言う。
「・・わかっているぞ。なんの用事だ、管理人殿。」
次の瞬間、扉は開け放たれ代わりに美しいエキドナが入ってくる。
「あら、ムスッとしちゃって・・。挑戦者よ、ミノタウロスちゃんが来たわ」
彼の言葉には顔色一つ変えずにそう告げると用事は終わったとばかりに
彼女は扉をくぐり出て行ってしまった。
エクシアは、そんなことを気にも留めずに戦闘のことを考え始める。
彼と彼女は大概このような会話しか交わさないからだ。

「ミノタウロスか・・得物はおそらく斧であろうな・・」
考えつつ魔界銀の剣と盾を取り階段を上がっていく。
彼が向かう先は、闘技場。
ゆっくりとしかし、しっかりとした足取りで戦闘の場所に出る。
ここにいる以上は彼も戦士として、また一人のオスとして見られてしまう。
目前にいるミノタウロスもおそらく彼のことをそう見ているだろう。

「へへ・・あんたが噂の騎士様かい。こりゃ、人間にしちゃ細い方かな?」
剣を構えて、彼は答えた。
「細い方なのだろうな・・だが、見た目で判断するのは良くないぞ。」
「ま、どうだろうと構わねえけどな!あんたの連勝記録もここでお終いだ!」
吠えると一直線に突っ込んでくる。
なんともミノタウロスらしいと言えばそこまでだが、厄介でもあった。
何せスピードがあり、反応できなければ待っているのは持ち帰りだ。
事実、以前はもっと居た男たちもオーガなどに
同じような攻撃を受け、もれなく全員お持ち帰りされていた。

「その手はもう、飽きるほど見させて頂いている。」
しかし、その程度で倒される人間ならばこの場に居ないのもまた事実。
さらりとかわし、背後をとって背筋に盾を打ち付ける。
「効かないねぇ・・!その程度じゃ・・!?」
振り返る彼女、しかし彼はもうそこには居ない。
「この程度とは思いたくはないが・・これも勝負なのでな。」
言うと彼は剣に魔力を滾らせガラ空きの背筋を叩き切った。
次の瞬間にはミノタウロスは力が抜けその場にへたり込むことになる。

「こ、こんな・・強いなんて・・な・・」
「すまないな、そちらの力を恐れたが故の作戦だ・・立てるか?」
彼が手を差し出すが彼女は受け取ろうとしない。
「いや、いいよ・・その手を取ったらあたしはあんたを襲う・・。
一人で・・立てるよ・・」
そう言うと彼女は立ち上がり、そそくさと出て行った。
その姿を見ながら、エクシアは一人呟く。
「・・なにか、その気にさせるようなことをしただろうか・・?」




次の日は珍しく挑戦者の居ない日だった。
そして彼もまた珍しく家に帰り、体を休めていると昼に来客があった。
「エクシアーっ!私は、帰ってきたーっ!」
そう言うと客人はノックもせずにドアを開ける。
「・・グラリス、叫ばなくてもちゃんと聞こえている。
で、今日は何の用事なのだ?」
「私と、勝負をしろ。今日こそはお前に勝って見せる!」

客人とはエクシアに恋をしているリザードマン、グラリス・シェーカーだ。
エクシアには幾度となく挑み、そして負けている。
本来なら彼女の種族柄、そこでハッピーエンドと相成るところだが、
エクシアの信条がそれを阻害した。
その時の会話がこれだ。


「私を倒すか・・よし、決めた!私をお前の嫁としてくれ!」
「・・断る。」「なっ・・・!?」
「私は、自らを屈服せしめた者にのみそれを許す。
堅苦しいかもしれないが、それが私の信条なのだ。
だから・・私を倒してから、その言葉を言ってくれ。
その時には、どんな状況にあろうとも貴女を受け入れよう。
それまでは断固として拒否させてもらう。」
「っ・・!わかった、絶対にお前を倒してやる。
だから、その時まで誰にも倒されるなよ!」=

正直、プロポーズではないだろうか。
それ以来彼は、何度も来る彼女に勝ち続けている。
なぜならば彼女の剣筋はまっすぐすぎるからだ。
いかに速かろうと、狙いがわかってしまえばいなすのは容易い。
しかし、幾度となく繰り返しているうちにエクシアも
彼女に戦い方を教えるようになっていた。
正直なところ、彼もその真っ直ぐな性格に惹かれ始めていたのだ。
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