文学系石蛇

とある学校の三階、図書室の放課後。
「・・・・っ。」
本棚を前にして、やや低めの背の女性は絶句する。
理由は、その蔵書にあった。
(何よコレ・・!ラノベから辞典まで沢山・・!
あ、持ってない巻・・!)
豊富なそのラインナップに、
女性はもはや小躍りせんばかりに興奮していたのだ。
流石にここは図書室、本当に小躍りはしなかったが。
(凄い・・!前にいたところもここは良かったけど・・
ふふ、転校前日に来てみて良かった・・!)


(・・あの人、凄く嬉しそうだな。)
そんな女性の後ろ姿をカウンターの中から本越しに見る青年が一人。
彼の名前は池田直也(いけだなおや)、この学校の図書委員である。
図書室に施錠する刻限である6時30分まで、
カウンターに座って本の貸し借り登録をする仕事を受け持っていた。
優しげな雰囲気の通りの穏やかな性格で、人並みに話も出来る。
本人に自覚は無いが、それなりに人気はある方だ。
そんな彼は本棚前の女性を見ていたかと思うと、
チラ、と入り口の方へと視線を動かす。

ガチャッ。

丁度その時、来客があった。
女性ではあるが、わりかしがっしりとした体つきで、
本気で睨めば小動物程度は殺せるのではないか、
そう思わせるに足る、厳かな雰囲気を持つ女性だ。
そんな彼女は一冊の本をカウンターに置くと、
「池田、この本を返すぞ。」
と短く言った。
見た目からするとやや意外な印象を受ける、優しい声。
「ん、はい・・っと確かに返しましたよ、立浪(たつなみ)先輩。」
しかし、池田は特に驚くことはない。
彼女が高い頻度で図書室に来るので、慣れているためだ。
彼はスキャナーを本のバーコードに押し当て、返却登録を済ませる。
程なくして鳴る、登録の終了を知らせるピッという音。
「ん、ありがとう。」
それを聞き届けると、立浪は本棚の方へ歩いていく。
彼女の中で今流行りの、ロマンス小説を捜しにだ。
(似合わないって言ったら、きっと怒られるよな〜)
カウンター係なのでそれを知っている池田は、
そんなことを思いながら再び、読んでいた本に視線を落とした。


しばらくして、時刻は6時30分。
皆、その時刻の持つ意味を知っている為に、
続々と図書室を後にしていく。
先程まで埋まっていた席が急速に空いていく様に、
池田が、感じ慣れたさびしさを感じていると。
「・・ねぇ。」
彼に声がかかった。
やや少女らしい、高めの声だった。
「・・?」
その声に彼は振り向く。
彼の目線よりも少し下の所にその姿はあった。
先程本棚を前に興奮していた女性だ。
(・・どうしたんだろう?何か訊きたい事でもあるのか・・?)
そう思った池田が何か発言する前に。
「あんたがここの図書委員?」
女性はいきなりそう言った。
「え・・あ、はい、そうですけど・・」
驚き、つい敬語になりつつも池田は答える。
「ふーん・・」
すると、女性は品定めをするかのように彼を見つめた。
ほんの数秒のことだったのだが、池田にはとても長く感じられた。
(・・蛇に睨まれた蛙ってこういうのを言うのか・・)
彼がぼんやりとそんなことを思ったその時。
「・・そ、じゃあね、お疲れ様。」
彼をそんな風にした彼女は、
突如さっと視線を外してそう言い、去っていく。
「あ・・はぁ・・さようなら・・」
呆気にとられつも、その背にそう声をかける池田。
(・・何だったんだ・・?お疲れ様とは言ってくれたんだから、
いたずらとか、悪意があるわけじゃないみたいだけど・・)
彼は戸惑いつつも、戸締まりやその他諸々の確認という、
図書委員の任を果たすべく、椅子から立ち上がるのだった。


翌日。
「ほれ静かに・・これより転校生を紹介するでな。」
チャイムが鳴っているにも関わらず騒がしかった教室は、
古風な喋り方の背高の女教師、古谷(ふるや)の一声で静まり返る。
それを見回して確認してから古谷は再び口を開いた。
「んむ、素直でよろしいことよ。
では紹介する・・石塚、入って来て良いぞ。」
そして、教室の入り口に向かってそう声をかける。
それに応えるように、ドアが動き一人の女性が入ってくる。
池田は、彼女に見覚えがあった。
(あれ、昨日の女の人・・同い年だったんだ。)
彼が軽く驚いていると、古谷は石塚にチョークを手渡す。
「では、自己紹介を、の?」
石塚はそれを受け取ると、
黒板に名前を書き、生徒の方を向いて自己紹介をした。
「・・石塚真奈子(いしづかまなこ)、好きに呼んでくれて良いわ。」
・・それは、少々ぶっきらぼうだった。
加えて、笑顔も浮かべず真顔であったため、
普通なら次々と飛んでくるであろう質問も来ない。
(・・え?あれ?私、もしかして何か変なこと言った・・!?)
そんな風にしてしまった石塚本人も実は戸惑っていた。
彼女は別に、新しい教
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