「何が言いたいんだ?」
お前は、何だ。
その言葉に俺は反射的にそう言い返していた。
何だと聞かれても答えようがなかったからだ。
「言葉通りの意味だ、お前は何なんだ?」
しかし要領を得ない繰り返しは、そんな表向きの理由で済ませてはくれなかった。
「……意味が分からないな、哲学でも語りたいのか?」
裏向きの理由、怒りと謎の衝撃の元に言葉を吐く。
怒りは至極当然だ。
入るなりなんなり厳しい口調で存在を問われたのだから。
相手の顔を見るに酔っぱらっている訳でもなさそうなので、
本気でこれを聞かれているのが確かなのもそれに加わる。
となると案ずるべきは謎の衝撃の方だった。
正体の分からないその感情は、次第にいらつきへと変わるものだからだ。
「ふん、そうやってはぐらかすか?」
とワイバーンが口を開く。
それは返答するものではなく言葉への言いがかり。
まともに話をするつもりがあるとは思えなかった。
……このままやっていても話は平行線を辿りそうだな。
冷静な部分がそう言う。
ならば適当にあしらうのが定石であった。
「分からない奴だ、いきなりお前は何だと聞いておいて戸惑う体を見せればそれか?
普通の感性とは思えないな。」
が俺はそう返してしまう。
度を超していた苛つきがそうさせたのだ。
無論、感情論に感情論で返すのは悪手である。
「ならば答えればいい、お前は何なのだ。」
そうするとやはりワイバーンは最初に戻った。
というのも、分からなくて困っていると言えばとりあえず答えろとなるのは分かり切っていたからだ。
ともあれこれでは話題は堂々巡りか。
「何といわれても困る、強いて言うならば普通の騎士だというくらいだが。」
だから今度はぐっと抑えて自分なりの答えを探してみた。
何と聞かれたのだから所属する役職でも言えば納得するだろう。
「違う、お前は何も分かっていない。」
そう思っての発言だったのだが返ってきたのは怒っているような言葉だった。
所々呆れも入っているように見受けられる。
それは、ともかく。
これはあんまりじゃないか?
いきなり話しかけられて、問いを投げられたかと思えば不機嫌になられ。
礼儀作法がどうのと言うつもりは無かったが流石に腹に据えかねる。
時間ばかりか機嫌まで損ねていくとはどういう了見だろうか。
大体どうして俺だ、何か八つ当たりをしたいのであれば他を当たれば良かろうに。
「ハ……分かっていないのはどちらだろうかな。」
と一度思ってしまうともう抑えられないもので。
そう言う心は、繋がっている俺の体は何とも軽く言い捨てていた。
ハッと嘲笑うような笑みまで加えてだ。
「何だと?」
するとみるみるワイバーンの顔が赤くなっていく。
それを見るとまたやられた分の仕返しすらしたくなってきて。
「言葉通りだ、お前こそ何だ。
酒を飲んでいるようにも見えないのに顔を真っ赤にして。」
つるつると言葉達が口から滑り出ていった。
こうなってしまうと止まらない。
「っ……!」
眉間がピクピクと震えている。
どうやらあちらも本格的にご立腹のようだ。
だが正味。
ここまで言っておきながら俺は自分が分からなかった。
ただのいきなり話しかけられた怒りであるならばこうまでは言わないはず。
だのに度を過ぎた怒りで潤った口からは制御を失って罵倒が発射されていく。
その源泉となっているのは間違いなく。
「お前は!そうやって私の問いから逃げる!何なのだと聞いただろう!
それに答えさえすれば」
そう、お前は何なのだというそれ。
「答えたろう、だというのに細かい説明もなしに否定したのはどっちだ!
人の話を聞く気があるとは思えない態度でよくもまぁそんな口を!」
そのいらつく理由の改めての提示に、こちらももっと熱くなる。
こうなってくるともはやいらつきの理由などどうでも良かった。
こいつを言い負かしてやるという思いも加わり、過激にヒートアップしていく。
「もっと奥の方を聞いている!察せ無いのか!」
「察しろぉ?ほぉ!お前がか、ならまずこっちがどんな気分かを察して欲しいもんだが!」
「その気分の元は何かと聞けば、そもそも答えないからだ!」
「なら聞かなければ良かったろう!酔っぱらいの難癖にしてももっとマシなものを選ぶぞ!」
「何を」「あぁ、ったく」
言葉での決着はもう無理、そのように思って手が出かけたその時。
「そーこーまーでーでーすーっ」
そんな伸びきった声と共に、それとは全く裏腹の剛拳が俺達の目の前に突き出された。
大気を切り裂かんという勢いでグーが入り込んできたのだ。
「「な…」」
二人して絶句し拳の根の方を向く。
そこには体中に土を纏った女の姿。
「っ!」「…!」
それを目にして、固まる。
冷水を
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