「では、本日はここまで!」
「…ふぅ。」
騎士団の鍛錬が終わっての帰路にて、何となくため息を吐く。
だからどうなるというわけがないのだが、
俺はそれを自覚してどうにも沈んだ気持ちになるのだった。
「…」
そんな気持ちをも分かってしまい更に沈む。
つくづく、酷い性分である。
物語か何かであるなら、ここで幼なじみや同僚辺りから何を沈んだ顔をしていると言葉でもかけられそうなものだが。
「…ふっ。」
そんな状況あるわけがない、とかき消す。
何せ俺は。
俺、レーヴェ・ラッセルは極々普通の若輩騎士なのだから。
年は23、位はないわ名家の生まれというでもなく王家とつながりがあるでもない。
あるものといえば何とない満たされぬ感じと、このただ面倒なだけの思考回路だ。
「ふ。」
下らないな。
合理的な答えを出すのだけは得意な思考回路が、そう言う。
確かにこれ以上思っていても無駄そうだった。
どこぞの国では時は金なり等というのだしな。
「さて、と。」
ではどうするか。
足を進めつつ辺りを見回す。
「……ふむ。」
目に入ってきたのは酒場、ホルスタウロスが客寄せをしている。
豊満なバストと屈託無く輝く笑顔には、下心の有る無しに関わらず吸い寄せられそうだ。
事実入っていく人数もかなり多い。
よし、あれにしよう。
それを見て俺は決めていた。
あの中ならば、普通に紛れ込んでも心がざわつかないですみそうだとそう思ったからだ。
「……!」
入ってきたその男を見たとき、私の中にどうしようもない感情が生まれてきた。
この鱗に覆われた翼で頭をスパァンと叩いてやりたいようなそんな気分に見舞われたのだ。
「……ん、じゃあそれを頼む。」
とそんなことをついぞ知らぬ男が飲み物を注文する。
頼んだのはごく普通のジュース。
それ自体は何もおかしいことはないし、人の好みにケチをつけるのもお門違いだ。
そう、そうだと頭では分かっているのだが。
「……」
あの男の纏う雰囲気を見ていると、どうにも苛立ってくる。
見た目も行動も雰囲気も普通であるし本人もそのつもりなのだろうが、
何か、何か普通という枠にはおさまりきらない、そういう何かをあいつは持っている……
「ッ」
考えられたのはそこまでだった。
「おいお前。」
「?」
突如かけられた言葉にゆっくりと振り返る。
そこにはワイバーンがいた。
無駄のない引き締まった体で、凛と表現するのが如何にも正しいというような顔つきだ。
しかしおかしいのはそのポーズ。
翼爪の先を握りしめつつ顔をしかめて、まるで俺に文句の一つや二つでもあるかのようだ。
だが、無論俺に思い当たる節はない。
そもそも初対面なのだからこれで当然だ。
「……何だ?」
などと考える間彼女が何も話さなかったので、こちらから声を出す。
自分から話しかけておいて無言というのも苛ついたが、品定めするように睨みつけられているのも気に入らなかった。
「お前は、何だ?」
「……何が言いたいんだ?」
しかし彼女が応えたその言葉は、
そんな苛つきを優に越えさせる怒りと理由が分からない衝撃を俺に与えたのだった。
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