更なる秘奥義

翌朝、竜騎士竜風椿はゼクスの部屋の前に居た。
コンコンとノックを繰り返すが反応は無い。
「・・まだ、寝てるのか?」
そう呟いたとき、中から声が聞こえた。

「・・兄上、誰か来たぞい」「ん・・はいどうぞ、開いてますよ」
失礼する、と入ってみるとそこには、
ベッドの上にゼクスとバフォメット、トメアがいた。
ふむ・・?ゼクスと言えばその難攻不落振りから
”生涯独身を目指す説”が浮上してさえいたが・・
この状況、ゼクスよロリコンであったか・・


私は黙り込んだ椿を見て、言った。
「言っとくけど、勝手にトメアが入ってきたんだからね」「・・分かっている」
嘘言うな、その目は絶対分かってないだろ。
「そんなことを言うのか、兄上?昨夜はあんなに強く抱いてくれたのに・・」
「ゼクス、やっぱりトメアさんと・・」「違うから!」
確かに寝てるとき抱いたっぽい感じはするけど、
まだそこまでは行ってない、行ってないはずだ。

「そうじゃな、‘まだ”違うからのう・・くくく」
調子に乗ってるな・・こいつめ・・
そこでわざとらしく大きな声で言ってみる。
「トメア?リリムさんからもらったお菓子なんだけど、あげないよ?
いや〜美味しそうなクッキーなんだけどな〜?」
すると彼女はビクッとして振り返り、謝った。
「な・・何たる鬼畜の所業!兄上それだけは勘弁してくれぬか!
わしが悪かった、わるかったからぁ〜!」「しょうがないなぁ〜」

そう言ってクッキーを取り出し、トメアに渡す。
すると先程の顔は何処へやら、受け取るや否やぱくりとそれを食べ始める。
そのホクホク顔は人魔から畏れられているバフォメットというよりは、
お菓子をもらって喜ぶ、ただの子供だ。
まぁ、事実ではあるしそれが彼女の魅力であるとも思うが。

とここで苦笑いしている椿に話題を戻す。
「そう言えば、ラーシュさんは?」
「ああ、あいつ珍しく寝坊してな。
昨日やりすぎたかな・・まぁ、もう訓練場に行ってると思うが。」
訓練場、というフレーズでふと昨日のトメアの言葉を思い出す。
あれが本当ならトメアのことだ、勝手に木偶を増やすぐらいはやるだろう。
「訓練場に行こう、人が溜まってるかもしれない・・」


「はふぅっ!もっと、もっと激しくぅぅ!」「あぁっ、動くぞ・・!」
案の定過ぎて笑えてくるよ、まったくもう。

「あのさ、トメア?一応ここの管理任されてるの俺だから、
勝手に物品とか増えると報告とか大変なんだけど・・」
「む?あぁ、その点ならば抜かりはない。
ちゃんと上のリリム殿やエキドナ殿に話を通しておるよ。」
くくく、と笑うトメアは嘘を言ってるようには思えない。
いや、実際それが出来るのだから嘘を言う必要もないだろう。

「それで・・じゃ、今日も連係秘奥義をやるかのう?」
「ん〜会議(という名の半分は駄弁り)が有るから、
全力で一回だけやろうかな。」



彼の{全力}という単語に内心ニヤリと笑う。
あの魔術は力を込めれば込めるほど、強く、そして遅く返ってくる。
つまりは疲労が回復したころに性欲だけが湧きあがってくるのだ。
「あい分かった、では始めようかのう!」

木偶を見据える。
もともとゼクスを籠絡するための戦略だったが、やるからには本気だ。
ゼクスも昨日とは違い、力が満ち溢れている。
(どうやら、わし直伝の魔術を使うようじゃな、楽しみじゃ。)

「行くぞ、アサルトレイブ!」
そう言うと彼は次々と木偶に拳を打ち込んでいく。
それも人間とは思えぬスピードでだ。
しかし、合わせられない自分ではない。
「天より来たれ!スパークエッジ!」
空中から、雷の刃を作り出し木偶にぶつける。
最後に大きな刃をぶつけるつもりだったが、
彼は、「借りるよ!」と言っていとも簡単に刃の柄であろう部分を掴み、
「雷牙連閃!吹き飛べ!」
荒々しく斬りつける。
無論掴めたのは特訓の成果でもあるわけだが。

そのまま、魔力を逆噴射し、
「逃がすかっ、旋襲脚!」
吹っ飛ぶ木偶に追いつくとその勢いのまま回転蹴りを放った。
更に吹き飛びかける木偶、しかしゼクスに追いかける術は残されていない、が
「輝け、シルバータワー!」
すかさず冷凍術を放ち木偶を氷漬けにする。
空中で凍ったため落ちてくる木偶に
「豪爆破砕哮(ごうばくはさいこう)!砕け散れっ!」
ぶつけられた気合が氷諸共、木偶を吹き飛ばす。

(・・兄上を後で狂わせるには今ひとつ足りぬな・・)
あと一発、何か大技を出せれば・・
「トメア、最大火力だ!こっちも本気で畳む!」
背を向けたまま楽しそうにオーダーを出してくる。
この千載一遇の機会、逃すわけにはいかない。

「了解じゃ!・・砕き、裂き、貫け・・今ここに集いて破壊せよ!」
手の上から、火岩風水をぶつけては単なる力に変えてゆく。
チラと、ゼクス
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