「事実は小説より奇なり」なんて言葉がある。人が頭の中で考えた虚構より、現実に起きることの方が余程不思議だ、ということだ。
とはいえ普段暮らしていて、そんな出来事に出くわすなんてことは滅多にない。なべて世はこともなし、たまに変わったことがあったとしても精々買い物しようと街まで出かけて財布を忘れるとかお魚くわえたドラ猫を裸足で追いかけるとか、その程度だ。
女の子を迎えるのは白馬に乗った王子様じゃなくて自転車に乗ったチャラ夫だし、子供はクリスマスの夜にお父さんが枕元にやってくる姿を見て一つ大人になる。
大抵の場合、やっぱり小説の方が現実より奇なのだ。ビバ妄想。ハイル創作。
だから私は平凡に暮らす。特にこれといって刺激もない代わり映えのない日常の中で暮らす。
なのでたまに小説の中の登場人物が羨ましい。異世界を冒険するとか正義の味方になって人を守るとか、そういう生き方もしてみたい。
逆に殺人事件に巻き込まれるとかしてみたい。「殺人犯と一緒になんか寝られるか!私は自分の部屋で寝る!」とか宣言してみたい。
残念ながら現実には奇跡も魔法もないし、いるだけで事件が起きる名探偵なんかも存在しないのでそんなこと出来ないけど。
なんでもいいから、非現実的な事起きないかな。その方が楽しいのに。
……そんな風に思っていた時期が、私にもありました。
私の名前は坂上歩美。心に傷を負った女子大生でモテカワスリムで恋愛体質の愛されガール……なんてことはない。援助交際をやってたり学校にナイショでキャバクラで働いてたり訳あって不良グループの一員になってたりする友達もいない。もしかしたらいるのかもしれないけど仮にいたとしてもそういう事実は確認していない。ない。ないったらない。
ごく普通に高校を卒業してごく普通に大学に進学し、ごく普通に下宿生活を送り、ごく普通のサークルでごく普通の友達を作りごく普通のキャンパスライフを過ごしている。ごく普通体質のごく普通ガールである。
心に傷ならちょっとは負っているが、それも小さい頃に読んだホラー漫画が怖かったとかその程度である。最近実家で読み返してみたら全然怖くなかった。
そんなごく普通の私があるごく普通の夜ごく普通に寝苦しくなってごく普通に目を覚ましてみると、見慣れた天井からごく普通に足が四本ぶら下がっていた。
「……は?」
意味不明の現状に目が点になる。あまりにごく普通ではなさすぎて、驚きのあまりわけのわからないモノローグに紛らせてスルーしてしまうところだった。
布団から見上げる天井には脚が四本。二本は長くて二本は短い……というか小さい。両方ともやけに肌がきれいで、しかもなんだかすらっとしている。言ってしまえば美脚である。グンバツである。
多分男が見れば誰でも一発でメロメロになってしまうだろうし、女が見れば誰でも嫉妬してしまうだろう。天井から生えていなければ。
……まあ、脚がグンバツか否かということはこの際どうでもいい。たとえ生えているのがマリリンモンローの脚だろうと川越シェフの脚だろうとガンダムの脚だろうとそんなことは問題ではない。ジムの脚は結構艶かしいと思うがそれも別に問題ではない。
今問題なのは、何故か私の部屋の天井から脚が生えているという事態そのものである。
「……えっと、うわ、何これ気色悪ッ」
状況が理解できなさすぎてこんなリアクションしか取れない。でも事実キモいものはキモいのだから仕方がない。
ついでに言うと、それがだんだん下に下がって来てる気がする。いや、気がするんじゃなくて、実際に下に降りてきてる。事実ちょっとずつ腰のあたりが見えてきた。ますますキモい。
「えーっと……」
絶句する私を尻目に、天井からぶら下がっている妙なモノ(もう脚以外のものまで見えてきたので)はどんどんずり下がってくる。
腰が見え胴が見え胸が見え、最終的に首なし死体が二つ並んで天井からぶら下がっているような状態になった。
どういうわけか二つともやけに露出の多い格好をして、ついでに腰のあたりから悪魔みたいな翼と尻尾が生えている。コスプレだろうか。
(……こんなの絶対おかしいよ!)
寝起きと混乱でぐちゃぐちゃになっている頭でそんなことを考えながら、身動きも取れずに状況を見守っていると。
ずるん、と音を立て、
「さあ到ちゃ……のわぁぁぁ!」
「大丈夫なんですか、やけに転送に時間掛かって……えええっ!?」
天井から生えていたもの……いや、人が、布団にくるまっている私の真上に落ちてきた。
二人がさっきまでいたのは私の真上。必然的に、私は下敷きにされてしまうことになる。
このままではいけない。私は布団を翻し華麗に回避……
「ぬふぅ」
できなかった。
人二人分の重みに耐えきれず、私の意識
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