ある遭遇・前編

出会いがいい事か悪い事か。
それがどちらかはわからないけれど、間違いなく言える事が一つある。
出会いは、何かを変える。
時にはかけがえのない友達と出会い、時には自分を陥れる悪と出会う。
それがいいように働くか悪いように働くかはその時次第だけど、何かと出会う事は何かを変えることと同じ。
ある出会いで、私は変わった。それだけじゃなくて、私は私以外も変えてしまった。
これからするのは、その出会いのお話。






私はその日、住んでいる村にほど近い森の中を歩いていた。
特に何かする気があるわけじゃない。ちょっと暇ができたから、暇つぶしにぶらぶらしているだけだ。
辺りには鳥の声と木々のざわめきだけが小さく響いている。
なんという事はないけれど、こういう雰囲気が私は好きだった。
「静かだなぁ……あ、野良イチゴみっけ」
伸びをしながら歩いていて、目に入った小さな実を口に含んでみる。甘酸っぱい味が口に広がり、思わず顔がほころぶ。
「〜♪」
思わず鼻歌交じりになりながら歩く。大したことはないけれど、日常の中のちょっとした幸せだ。道端の花を摘んだり、蝶を追いかけてみたり。子供みたいだなと思いながら、私は森の中の自由な時間を満喫していた。


「……あれ?」
でもその途中、機嫌よく歩いていた私の足が止まる。何か辺りの雰囲気が急に変わった気がしたからだ。
それで辺りを見回して−−私は自分の目を疑った。
「何、ここ……」
いつのまにか辺りの風景は私の知っているものから様変わりしていた。
毒々しい色合いの蔦が絡まって出来たような木や奇妙に節くれ立ちねじ曲がった木が立ち並び、ハート型の赤い実をつけている。
悪夢の中にでも迷い込んだような、悪趣味な光景だ。
「……ひっ!?」
私があまりの事に呆然と立ち尽くしていると、どこからともなく細長い蔓が伸びてきて私の腕に絡みついた。表面はぬめぬめとして冷たく、肌が粟立つ。
「いやぁっ!」
慌てて蔓を振り払う。手から離れたそれはしょげかえるような動きで引っ込んで行ったが、そんな事はもう関係ない。
「に、逃げなくちゃ……!」
その場で踵を返し、来た方へ向かって全速力で駆け出す。頭の中はめちゃめちゃに混乱してしまって、まともに物も考えられない。ただ怖くて怖くて、目の前の不気味な世界から逃げ出したかった。
「はぁ……はぁ……!」
息を荒げ、伸びてくる蔓を避けながらひた走る。自分でも気づかないうちに入り込んでしまっていたせいか、なかなか出口は見えてこない。というか、今向かっている方向が正しいのかすら怪しい。でも、パニックに陥った私にはただ走る事しかできなかった。
……と、その時。
「…………!?」
私の背後に、何か恐ろしい物の気配を感じた。血が上っていた頭が急速に凍りつき、足に強くブレーキがかかる。

がさ……がさ……

背後から茂みをかき分ける音が聞こえる。とにかく逃げなくちゃいけないのはわかってる。でも足が動かない。蛇に睨まれたカエルって、こういう気分なんだろう。
「……ぁ……ぁん……」
その音に混じって、なぜか高くか細い女の子の声が聞こえてくる。あまりにも場違いな感じが逆に不気味だ。

がさ……

音が止んだ。ゆっくり、ゆっくりと顔をうごかして後ろを振り向く。せめて、自分に迫っているものが何かという事は確かめたかった。このまま助からないとしても、わけのわからないまま死んでしまうのはいやだ。
そして、私の背後にいたものの正体が目に入る。
「……なに、これ……」
そこにあったのは、巨大な黒い球。そうとしかいいようのないものに、小さな女の子が1人またがっていた。
「んふ、ぁぅ……はぁぁ……♪」
下の黒い球から触手が生えて、女の子に絡みついている。はじめは女の子が球に襲われているのかと思ったけど、気持ち良さげに声をあげている辺り違うらしい。
「……」
見た目はひ弱そうな子供と変な球。なのに、これと一緒にいるとまるで猛獣を目の前にしているような気分にさえなってくる。
得体の知れない恐怖感に、私は怯えるしかなかった。
「……あは……?」
焦点のあっていなかった女の子の目が、突然こちらに向く。どうやら今こっちに気づいたらしい。
今更ながら、さっき逃げなかった事を後悔した。
そして、女の子が口を開く。
「にんげんさん?」
「……?」
突然の問いかけに、私は何とも答える事が出来なかった。雰囲気に押されて口が動かない。
「にんげんさん?」
「……は、はい」
二度目の問いかけに、私はなんとか肯定で返すことが出来た。誰がどう見ても私は人間なんだから、下手にウソをついて相手の神経を逆撫でしたりしたら−−もっともこっちの常識が通じる相手かどうかもわからないけど−−逆に厄介なことになるかも知れない。
「きもちいいの、すき?」
私の返事を聞いたその子
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