あるよく晴れた日のことです。
一人の男の子が、森の中をさまよっていました。
「ここ、どこぉ…」
どうやら、道にまよってしまったみたい。
きっと夢中で遊んでいるうちに深くまで入りすぎてしまったんですね。
いつのまにやら人の作った道はなくなって、辺りはすっかり茂みに覆われています。
だんだん日が傾いてきて、森の中はよけいに薄暗くなっていきます。
聞こえてくるのは鳥の鳴き声や、木々のざわめきだけ。
人がいる気配はありません。
男の子はだんだん怖くなってきました。
「……帰りたいよぉ……」
歩き回ったせいでお腹もすいたし、もう疲れてへとへとです。
家に帰らないとご飯も食べられないし、ベッドでぐっすり眠ることもできません。
だけど、その家ももうどっちにあるかさえ分からないのです。
ーもしかして、ぼくは二度と家に帰れないんだろうか。
男の子はそんな事を考えて、急に不安になりました。
「……うう、ひ、うえっ……ひっく……」
悲しさと寂しさが我慢できなくて、ぽろぽろと涙がこぼれます。
辺りの木が風でざわめく中、男の子はそのまま地面に座り込んでしくしくと泣き出してしまいました。
その時。
がさっ
と、近くの茂みが音をたてました。
(なんだろう?)
男の子は音のした方に目を向けます。
「……やあ」
そこには、ぼーっとした顔の大きなお姉さんが一人立っていました。
お姉さんの手や足は長い毛で覆われていて、頭の上からはかわいらしい丸い耳がふたつ生えています。
お姉さんはグリズリーという魔物でしたが、男の子はそんな事は知りません。
ただ変なお姉さんだなあと思って、様子をじっと見ています。
すると、お姉さんは男の子に話しかけてきました。
「……ぼーや、どうして一人でこんなところにいるの?」
「さっきまで、あそんでたから……」
「そっかー。でも、ここは危ないんだよ。もう遅いし、早く帰ったほうがいいんだよ」
「……おうち、どっちかわからない……」
「……迷子さんだったのかー」
お姉さんはどうしようか少し考えます。迷子をほおっておくわけにはいかないけれど、お姉さんには森の出口までしか連れていけません。人間に怖がられているので、人里まで出ていくのは少し危ないのです。もう日もくれてしまっているし、男の子を一人にしてしまうのは少し不安です。
そこで、お姉さんはにっこり笑って男の子にこう言いました。
「それじゃあ、今日は私のうちにとまっていくんだよ。それで、明日になったら森の出口までつれていってあげるんだよ」
そしてお姉さんは男の子を抱え上げて、森の奥のほうへ歩き出しました。
(……どんなところなんだろう?)
男の子はどんな場所へ連れていかれるかちょっぴり不安になって、身を少し縮めました。
「大丈夫なんだよ。こわがらなくてもいいんだよ」
そんな男の子の様子に気づいたのか、お姉さんは男の子に優しく微笑んで、右手を少しだけ男の子の鼻先に近づけました。
お姉さんの手から、甘い香りがします。
それを嗅いだ男の子は、なんだかほっと安らいだような気持ちになりました。
自分を受け止めているふかふかした両手に、甘い香り。みんな、お姉さんの優しい気持ちをあらわしているみたいに思えます。
……いい気分になった男の子は、いつのまにかすうすうと眠ってしまいました。
しばらくして目を覚ますと、男の子はほら穴の中で大きなふとんに寝かされていて、その隣ではお姉さんが焚き火で魚を焼いていました。
「おはようなんだよ。ご飯ができたから、いっしょに食べるんだよ」
お姉さんはそう言うと、串にささった焼けたばかりの魚を一匹男の子に渡します。いい匂いがして、とても美味しそうです。
「「いただきます」」
二人は声をそろえてあいさつすると、目の前の魚にかぶりつきました。
「おいしい、おいしい」
男の子はもちろん、お姉さんもお腹がすいていたのでしょうか。二人ともどんどん 魚に手を伸ばしていきます。結局、男の子は3匹、お姉さんはなんと20匹も魚を平らげてしまいました。
すっかりお腹いっぱいになった後、お姉さんはほら穴の奥から何か大きな壺を持ってきました。ふたを開けると、中にはなみなみとハチミツが入っています。
「これはデザートなんだよ」
お姉さんはニコニコしながらそう言うと、右手を壺の中に突っ込んで、ミツまみれになった手をぺろぺろとなめます。そのたびにお姉さんは幸せそうな顔になりました。
「ぼーやもたべていいんだよ」
そう言われたので、男の子もおそるおそる手を壺に伸ばして、それからなめてみました。
口いっぱいに甘い味が広がります。
「おいしい!」
男の子は思わずそう叫びました。
「うふふ、おいしいんだね?」
「う
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