大学生の夏休みとは、ただダラダラする時間である。少なくとも俺にとっては。
大学に入って初めての夏休み。最初俺はその長さにウキウキし、何をしようか考えた。
サークルの合宿は外せないだろ。誰か友達を誘って遊びに行くのもいいかもしれない。いやいや、来期に向けて勉強するのもありかも。それとも思い切って海にでも行ってみるか?案外彼女なんか出来ちゃったりして…
しかし元々無精かつ若干ぼっち気味な俺にとって、輝かしい夏休みの生活など夢のまた夢であった。
友人を誘ってみたもののみんな都合が合わず、結局一人で遊園地に行くハメになった。親子連れやらカップルが多くて泣きたくなった。市内の観光地を自転車で巡ってみたりもしたけど、流石に何度も行く気にはなれなかった。
たまに気が向いた時は机に教科書を広げてみた。数分後には教科書はマンガに変わっていた。
海に行くなんてもってのほかだ。合宿で使ったせいもあって行く金もないし、だいたい遊園地で受けた白い目を思い出すと、行く勇気など霧散してしまった。
サークルの合宿は楽しかった。けど、夏休み中はそれ以外のサークル活動は最後の一週間までお預けらしかった。
夏休みが始まってひと月もすると、やる事がほとんどなくなってしまった。というわけで俺は、特に何をするでもなくリア充達を呪いつつ、ひたすらダラダラする非常に情けない夏休みを送っていた。
…そんな俺の退屈な毎日は、ある日突然急展開を見せた。
「おーい。太一、いる?」
布団の中で二度寝するかしないかの状態でうとうとしていると、玄関の方から聞き覚えのない女の声が聞こえた。
「はーい、少し待ってください」
全く迷惑な奴だ。折角人が二度寝を決め込もうとしてるってのに。だいたい俺に呼び捨てされるような女の知り合いはいねーぞ……などと考えつつ、俺は大急ぎで着替え、玄関の戸を開けた。
……そこには、手と顔の半分が骨剥き出しなターミネー◯ーのできそこないみたいな女がいた。
「…全く、太一は相変わらず無精だね。やる事ないなら実家にでも顔出しなよ。親御さんが寂しがるよ?」
「…………」
「どうしたのさ?人の顔ジロジロ見て。ボクの顔に何かついてる?」
あ、いや、その。
お前誰だよっていうかなんで初対面の相手にそんな馴れ馴れしい上に御節介なんだっていうかむしろ付いてるべき皮膚(モノ)がついてねーじゃねーかっていうか…
「…ぎゃああああああああ怪物だあああああああああああああああああ!!」
「ちょっと、怪物だなんて失礼な!ボクは君の彼女じゃないか!」
骨が剥き出しの彼女なんかもらった覚えねえよ!
「だだだだ誰だよお前!」
「だらけ過ぎてボクの顔まで忘れちゃったのかい!?なんて冷たい恋人なんだい君は!ハジメだよ!昔ずっと一緒だったじゃないか!!」
「ハジメぇ?…ん?いや、待てよ」
昔ずっと一緒だったハジメ…一人だけいる。
橘始(たちばなはじめ)。
小学校以来の俺の親友だったけど、高1の時に転校してしまった。
でも、目の前にいるこいつが始のわけがない。なぜなら…
「嘘つけ!あいつは男だ!」
確かに始は初対面の相手にことごとく性別を質問されるくらいの極端な女顔だったけど、生物学的には間違いなく男だった。
だけどこいつは体型やら声やらから察するに間違いなく女だし、自分のことを俺の彼女だと言っている。いくら俺が彼女いない暦=年齢だといっても、流石にソッチの気はない。
「そこまで言うならお前が始だって証拠を見せてみろ!」
「…中二の頃、机の二段目に入ってたノート。ボクにだけは見せてくれたよね」
「……な!?」
「確か俺は背信堕落王の息子だとか龍の末裔だとか書いてあったっけ?君のお父さん公務員だったと思うんだけど…」
「わ、わかった!お前は始だ!わかったからそれ以上言うな!」
「そんじゃあがってもいいよね?どっちにしろ答えは聞かないけど」
「ああ、いい!いいからそれ以上言わないでくれ!」
…黒歴史を持ち出された俺は、まだ確証も取れていないうちにこいつを家にあげてしまった。とりあえずこいつを黙らせないと俺の胃の健康がストレスでマッハなのだ。仕方ないだろ。
俺は始から一通り話を聞いた。
なんでも、転校して一年くらい後に交通事故に巻き込まれて、気付いたらこの格好で墓の中にいたそうだ。
家に上げた時はまだ半信半疑だった俺も、話を聞いているうちに目の前にいるこのホネホネロックが始だと信じざるを得なくなった。
確かにあの黒歴史ノート(始に見せて散々ネタにされたためその日のうちに処分)の内容と在り処を知っているのは始だけだし、それ以外の話も少なくとも俺の持っている限りの始についての記憶とほぼ完全に一致(始が生前から女で、俺の彼女だった事になって
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