その日の後に―真実の物語―

杏はその噂を確認するため、ある家の玄関を突き破る勢いで開けていた。

今まで、その噂は村へ広く広まっていたにもかかわらず杏は気にも留めていなかった。

それはただの「噂」であり、オビレが付いただけであると考えていたからだ。

あるはずが、ないと…。

「どうして、そんなの…」

しかし、今までそこにあったはずの「営み」は既に消え、家具はそのままだというのに、杏は廃墟のような寂しさを感じ取る。

それは、今まで描いてきた夢を壊された喪失感のようなモノに似ているのかもしれない。

空っぽのその家で、杏は膝から崩れ落ちそうになるのを何とか堪える。

嘘だと信じていたその噂は、現実になってしまっていた。

「あの言葉は、嘘だったの…?」

杏の耳にした噂というのは、魔物に助けられ「呪われた子」というレッテルを貼られてしまった「ヤミ」の両親が
自分達の意思で、この村を去ってしまったという話。

初めはそんな嘘を信じることはなかった。

なぜなら、旅立ちの時にヤミの母親が残した言葉を、今でも鮮明に覚えているからだ。


――――「ヤミ、何か困ったことがあったら帰って来るんだよ?」

母親は「ここがあなたの帰ってくる場所」という意を含めていたはずなのだ。


杏は、この言葉が嘘であるという疑いを持つはずもない。

それだけの判断材料が足りなかった。

「だって、あなた達の最愛の息子は、ヤミなのよ…」


杏の知り得ぬところで、思いは見事に裏切られてしまった。



ヤミが村を去って数ヵ月後の、残酷な出来事であった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

杏の両親と、杏は村長に呼び出されていた。

杏の両親は「ついにこの日が来てしまったか…」と不満そうな表情を浮かべるものの。

杏はこの日が来るのを待っていた。

寒さが一層強くなるこの頃、木枯らしにも負けぬ風が四人の間を通り過ぎていく。

「「呪われた子」の両親は自分達の意思でこの村を出て行った。それはなぜだかわかるか?」

ヤミの両親をわざわざ「呪われた子の両親」と称している部分、やはり、その類の話なのだと予想する杏。

村長は真剣な眼差しで三人を見つめるが、三人は口を固く閉ざしたままである。

「それはな、この一帯に「呪われた子」の噂が広まってしまって、もう住めるに住めなくなってしまったからだよ」



「そんな…」

杏は、ヤミがあっちの町でも幸せに暮らしていると思っていた。

誰も、ヤミの事情を知らないおかげで、ヤミが偏った見方や行為を受けていないと。

それは違っていた。

「忍野家、あなた達にも出て行ってもらいたい。「呪われた子」に関わった不幸な者達よ」

ヤミに関わってしまったから、このような罰を受けてしまうのだ。

そういう風にも取れる村長の言い草。

全ての元凶は「ヤミ」のあるのだと示唆している。

「それぐらいの理由で、私達が引っ越すと思いますか」

杏の母親が酷く冷めた口調で村長へつき返す。

そんな母親に対して、杏は少なからず驚きを抱いていた。

なぜなら、杏の両親は目立ってヤミと関わろうとはしなかったからだ。

ただ単に、この村に愛着が湧いているのかもしれないとも取れるが…。

「私はヤミくんを影ながら見てきました。娘と友人になってくれる男の子がどんな子なのか…」

そんな杏の予想も、母親の一言でヤミへの好意とレールを変えた。

「「呪われた子」と噂されているのは知っていましたし、誰も近づこうとはしないのも知っていました…。だけど、ヤミくんは絶対に「呪われた子」なんかじゃありません」

強い意志を持った瞳が村長を射抜くと、居心地の悪そうなため息がこぼれ出た。


「ヤミは「呪われた子」だ。周りを不愉快にするし、ヤミを助けた魔物が何を企んでいるかわかったもんじゃない…」

吐き捨てるように村長は言うものの、母親の意思は揺るがない。

「私には、そんな理由はわかりません。しかし、これだけは言えます」


「杏は、ヤミくんといるととても楽しそうで…。ヤミくんといると、普段見せない笑顔を見せてくれます。それだけで、私達は十分なのです」

両親には見えないところで、杏は頬を少しだけ赤らめるのである。

「そんな、笑顔をくれるヤミくんを「呪われた子」などと言っているあなたに、屈したりはしません」

きっぱりと村長の言葉を切り捨てる母親。

「理由はそれだけではない、「呪われた子」に関わったあなた達に対して、村人は不満が積もっている。
 ヤミが消え、ヤミの両親が消えたものの、忍野家が残っていては、また不幸を撒き散らすだけだと…。平和に暮らすことなど、できないと…。
村人達の声を聞くのも、村長の役目なのだよ…」

だから
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