道行く先に、こんもりと緑の山。
「……なんだこりゃ」
近寄って見てみると、カサカサに乾燥した植物のようだった。
ただ、普通の植物というよりは、浜辺に打ち上げられてガビガビになった海藻のような。
「ワカメか何か? いやいや、こんなに海から離れた所で」
邪魔くさいので道の脇に寄せようと、つま先で小突く。
と、
「…………ぅぅ…………」
小さな小さなうめき声。
「……まさか」
この中に誰かが埋まっている?
慌てて植物をかきわけると、中から出てきたのは一人の少女。
というか、
「テンタクルじゃねーか!」
テンタクルの少女だった。
人の形をしてはいるものの、本来なら粘液をまとっているであろう触手の部分は、完全に干からびてしまっている。
「お、おい! 大丈夫か!?」
頬をぺちぺちと叩くと、震える唇で小さく呟いた。
「……み……みずぅ……」
「だよな! ちょっと待ってろ!」
急いでバックパックから水筒を取り出し、彼女の口元へ。
「飲めるか?」
「…………ぅぅ……」
彼女は小さく呻くだけ。少しだけ水をコップに注いで口に流し込んであげたが、口の端からこぼれてしまった。まあすぐに肌に吸収されたようだったが。
仕方ないので綺麗なタオルを取り出し、水を含ませて彼女にくわえさせた。
「吸え」
「ん……ん……」
ちゅうちゅうとタオルから水分を吸いだすテンタクル。
しばらく、タオルを水に浸けては彼女に吸わせる、を繰り返す。
やがて、
「……あ……わたしは……?」
テンタクルが目を開いた。
「ん、気がついたか。大丈夫か? カサカサだったみたいだけど」
「あ……あなたが……たすけて……けほっ……」
声がかすれている。今度こそ、水筒を口元へ差し出した。
「とりあえず、飲め。持てるか?」
彼女は小さく首を振る。仕方なく、テンタクルの口へ、水筒を傾けた。
こくこくと喉を鳴らして水を飲む彼女。水筒を空にする頃には、だいぶ顔に水気が戻ったようだった。
「ありがとう、ございました。少しだけ、楽になりました」
「もう大丈夫か? 自分で歩けるか?」
「ごめんなさい……まだ、力が入らなくて……」
まあそうだろう。水気が戻ったのは顔だけで、触手の部分はまだカッサカサ。
「仕方ないな。この辺に水場あるところ、知ってるか?」
「は……はい」
「連れてってやるから、教えて」
「はい……あの……ありがとうございます……」
「ま、いいってことよ」
+ + +
ずるずると、テンタクルを担いで水辺へ運ぶ。
やけに触手が多い……。彼女を抱えても、かなりの量の触手を引き摺ってしまっている。
「あー、引き摺っちゃってるけど、大丈夫か?」
「はい……大丈夫です。乾燥してる所は……感覚ないですし……ちょっとしたキズなら……すぐ治りますから……」
「そうか」
魔物ってのは丈夫に出来てるもんなんだなぁ。テンタクルが特殊なだけかもしれないが。
「それにしても……なんであんな所で干からびてたんだ?」
せっかくなので、気になっていたことを聞いてみることにした。
彼女は少しだけ恥ずかしそうにうつむいて、
「えっと……その……た、たまたま、サラマンダーの方と居合わせて、ですね」
「……ああ……」
テンタクルの習性を思い出して、納得。
「と、とても険しい表情をしてらしたので……ちょっとだけ、ほんのちょっとだけですね」
「絡んだわけだ」
「……はい」
絡む(物理)。
えへ、と小さく笑った彼女は、まあ、可愛かったのだが。流石にそのサラマンダーには同情を禁じ得ない。
「それで、その、ちょっとだけ、の、予定、だったんですけど……」
「やり過ぎた?」
「やりすぎちゃいました……ちょっとだけ」
ウソだろ、ちょっとだけとか。そのままサラマンダーの熱で干からびるまでやってんじゃん。
と、そんな話をしていると、大きな泉に到着した。
「ここか?」
「はい。ありがとうございました」
「入れるぞー」
ゆっくりと彼女を水に浸ける。
「ん……んんん〜〜〜〜」
少しだけ険しい表情で、水に浸かる彼女。耳を澄ますと、シュウシュウと水を吸っているような音が聞こえるような気がする。
「……手、放しても良いか?」
「ま、待って下さい。いま放されると溺れちゃいます……」
「はいよ」
弱々しく、触手が俺の腕を掴んだ。
仕方ないので、しばらく待つ。
………………
…………
……
にゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅる
パッと見で、『ちょっと多くね?』って量の触手が、水面を元気にうごめいている。
あれ? ちょっと多くね?
これは……早め
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