「はー……終わった終わった」
とりあえずマージェスの家に戻った俺たち。
ソファにどすんと腰を下ろすと、ディアナがコーヒーを入れてくれた。
「お疲れ様でした」
「ありがと。昼飯食ったら帰るつもりだったのが、もう夜だぜ」
「大変でしたね……」
マートも隣に座り、二人してぐったりと息を吐く。
「……それはそれとして」
ちら、と視線をやる。
「……なに」
同じく、別のソファで寛いでいたイェルマが不快そうに眉をひそめた。
「いや……帰らなくて大丈夫なのかなって」
「……マージェがいいって言ったもん……」
「いいのか?」
「久々に三人そろったし、夕飯くらいなら別にいいかなって」
「えへへ」
イェルマは嬉しそうだが、それ多分友達対応だぞ。恋人対応とかじゃないぞ。
「あーそうだ」
マージェスが声を上げて、部屋を出た。すぐに戻ってきた。
「忘れないうちに返しておこう。はい」
「おう」
渡されたのは、ディアナと一緒に見つけたノート。
「読んだのか?」
「いや。暇なかったし。コピーは取ったから、あとで読む」
「そうか」
受け取ったノートを、もう一度だけ目を通して。
「ディアナ」
「はい、何でしょう」
「これは君のだ」
「……これ、は……」
「君と一緒に見つけたものだ。君の製作者が何を思って一緒に置いていたのかは分からないが。大切なものだろう?」
「……ありがとうございます」
ディアナは、ノートを胸に抱きしめた。
「……そういえば、情報ディスクって、どうなったんですか?」
「う」「ぬ」
マートが余計なことを言う。
そういえばそんなものもあったね、と言いたくなる気分。
俺には読み取れなくてもマージェスなら何とかなるかな、とも思ったが、結局マージェスにもできなかったのだ。
「ディスクですか?」
「ノートに挟まってたものだ。ディアナなら読み取れるか?」
「貸していただけますか」
情報ディスクを渡す。ディアナはその両面をじっくりと睨む。
「これが、このノートと一緒に?」
「そうだ」
「……これは……」
「どうかしたか」
「……いえ。これは映像記録です。再生しますか?」
「頼む」
「では再生します。『movie player』起動」
ディアナが何かの魔術を発動させると、パッと空中に映像が浮かび上がる。
映っていたのは、4人の男女だった。
「――――ドクター」
ディアナが小さく息を飲んだのが聞こえた。
俺たちは黙って映像に目と耳を傾けた。
+ + +
おはよう、ディアナ。無事に目が覚めたようで本当に良かった。
いろいろ言わなきゃいけないことがあるんだけど……そうだな、君の生い立ちから話そうかと思う。
君には6人の姉がいたんだ。僕たちが、祖国にいた時に手掛けた6体のオートマトン。
『Fortuna』シリーズ……女神の名前を付けた彼女たちは、僕らの国のために、人のために作られ、働くはずだった。
国の軍部が、彼女らを勝手に徴用し、武装させ、戦争に送り出した。
……結果、彼女らは帰ってこなかった。
僕らは当然怒って、軍部にいろいろ文句も言ったんだけど、彼女らが帰ってくるわけでもなし。結果として僕らは国を離れた。色々暗殺されかけたりもしたけど。
最後に僕らがたどり着いたのが、あのセーフハウス。君が生まれたあの研究所だ。
正直に言わせてもらうと、僕ははじめ、あそこで何かをするつもりはなかったんだ。あそこでゆっくりと残りの時間を過ごすつもりだった。
それが……最初に言い始めたのは誰だっけ? ミナノマだっけ?
ミナノマが、暇だからオートマトンを作ろうって言い始めて。
だから、平和に過ごすことのできる末妹を作ろうってことになって。
そうして生まれたのが、君だ。
……君に外を見せてあげることが出来なかったのは、僕の最大の後悔だ。
軍部に見つかることを恐れるあまり、外の世界を見せてあげることができなかった。
結局、僕らは軍に見つかってしまったわけだけど。
君を休眠させた理由は、軍から君を隠すためだ。
君が軍に見つかったら、必ずまた戦争の道具にされてしまう。
それは避けたかった。それだけは、どうしても。
君に理由を話さなかったのは、心配させたくなかったからだ。
……君が今、これを見ているのであれば、まあ悪い結果になったということで。
あーっと……何を話そうとしたのか忘れちゃったな。
なんだよ、うっさいな。泣いてないよ。
……僕らは、君に世界を見せてあげることができなかったけど。
生き延びた先の未来で、どうか平和な世界を見てほしい。
空の青さを、夜空の黒を、夕焼けの赤を、朝焼けの白を。
海の広さを、森の深さを、山の高さ
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