2 魔法使いと魔法使い

 自分の家に帰ってきて。
 研究室の隣に、圧縮した隠し部屋を展開。例のガラスの棺を開けることはできたのだが……。

「……目を覚ましませんね」
「うんともすんとも言わねぇ!」

 棺を開けたら起きてくれないかなと思ったが、さすがにそこまで甘くなかった。
 さてどうすれば目覚めるかと、いろいろ調べてはみた。
 どこかにスイッチがあるのではないか、何かキーワードで起きるのではないか。
 いろいろ試してみたけど結果はダメでした!

「……少なくとも、上っ面を撫でるような調査ではダメということか……」
「ど、どうするんですか?」
「……内部構造の解析……」
「おお……」

 内側の構造が解れば、外部につながっている機関のどれかがスイッチかもしれない。
 それがダメだったら……。

「……記述式の解析には手を出したくないな……」
「記述式……とは?」
「オートマトンを動かす魔術式みたいなものだよ。ゴーレムみたいに魔術式だけで動いてるならいいけど……どう考えても機械記述があるんだよなぁ……そこまで話が行ったら……考えたくないなぁ……」

 俺は機械記述を読めない。魔術式とは記録の方法そのものが違うのだ。機械記述を探し出すだけでも一苦労。そして、形式やらなんやらかんやら全てが異なっているので、何が何を表しているのかすら分からない。
 一人だけ、読めそうな知り合いに心当たりがあるが……。

 とりあえずは内部解析だ。

   +   +   +

 はい何もわかりませんでした。

 構造が複雑すぎる。外につながってる部分を全部触ってみたけれど、動き出す兆しはなかった。
 内部解析でわかったのは、魔力炉はまだ生きていて、今は休眠状態になっているらしいということくらいだ。
 魔術式? 式の量が膨大すぎて必要な情報を抜き出すだけで数か月かかりそう!
 機械記述は知らん。

 例のノートも解読してみたが、どうもこのオートマトンの開発者たちの日記というか、雑談ノートだったようだ。それがなんで一緒に置いてあったのかはわからないが……。
 ざっと目を通しただけだが、彼らも彼女の開発にいろいろと骨を折っていたようだ。重要な情報は見つけられなかった。

 とりあえず。何もできないわけではないが、実際に動かすには長い長い時間がかかりそうなことはわかった。
 でも出来るだけ早く動かしたい!

「……仕方ない」

 できればあまり頼りたくなかったが。

「知り合いに、解析に強い奴がいる。頼ろう」
「わ、わかりました」
「それでも数日か数週間かかるだろうから、泊まりの用意をしておこう」
「はい」

 ……さて、手伝ってくれるだろうか。

   +   +   +

「……何しに来たの」

 冷たい視線が痛い。
 心の底から嫌そうな顔でにらんでくるこの男は古い友人で、まだ見習い魔術士だった頃からの付き合いである。
 一緒に色々バカなこともしたが、だいたいいつも俺が面倒ごとを持ち込んだので、連絡なしで顔を出すとこのように嫌な顔をされる。

「いや、今回はそんな変なことじゃなくてな?」
「そういって、大体いつも変なことだろ」
「いや実は、オートマトンを見つけてな?」
「…………おーと……なんて?」
「オートマトン」
「………………」

 友人の動きが止まる。何かいろいろな葛藤があるのだろう。

「……ドウゾアガッテ?」

 すごく苦々しい声のカタコトで言われたのだった。

   +   +   +

「こいつはマージェス。魔術学校時代からの友達」
「どうも。術式解析とアイテム作りが専門です」
「こいつはマート。俺の弟子」
「よ、よろしくお願いします」
「……弟子、ねぇ」

 ふーん、と、呆れたような顔のマージェス。

「……一応忠告しとくけど。こいつに師事するのはあまりおすすめしないよ。頭おかしいから」

 初対面のマートに向かってなんてこと言うんだこいつは。

「ひどくない?」
「だってゴーレムの研究始めた動機が本当にひどい」
「その話はやめませんか!」
「聞きたいです」
「マートも乗らないで!」
「こいつ、彼女が欲しいからって、理想の女の子を作って彼女にするとか言ってたんだよ」
「やめろよーーーーーー!! 今はもうそういうアレじゃないんだよーーーーーー!!」
「でも、ゴーレム作りに愛は必要だと思います」
「えっ」「えっ」

 俺とマージェスの声がハモる。
 真顔のマート。嫌そうな顔のマージェス。俺は笑顔になる。

「マート君!」
「先生!」

 同好の士だったことを確認した俺たちは、熱い抱擁を交わした。

「…………僕が悪かったから、本題に入ろう」

 マージェスはがっくりと肩を落とすのだった。

   +   +   +

「……で? そのオートマトンは?」
「うん。
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