1 ゴーレム使いと遺跡

「おーうおう……手ひどく荒らされちゃってまぁ」
「さすがにもう何も残ってないですかね」
「望みは薄いだろうなぁ。ま、探してみないことには何とも……」

 古代の古代の古代の、いわゆる旧世界とか旧文明とか呼ばれる時代の遺跡。
 未知の素材や未知の技術を手にせんと、様々な国やら研究者やらが訪れては、使えそうなものを根こそぎ浚っていく。
 その略奪されつくした遺跡に、俺たちはいた。
 何でもかんでも持っていかれて、もはやどんな施設だったのかもわからない。
 何か大きな戦闘でもあったのか、無数のゴーレムの残骸が転がっていた。

「……なんかかわいそうですね」
「作業用の、大量に作って使い捨てられるタイプの土人形ゴーレムさ。可哀想だが、そういう役割だ。仕方ないね」

 しかし、いかに大量生産されようと、その一つ一つに刻まれた時間は個別のものだ。これだけ大量にいるのであれば、わざわざ術式を取り出して使い回すこともないだろう。
 静かに瞑目し、胸に手を当てた。

 それはともかく。

「さて、マート君」

 マート ――自分の弟子に声をかける。

「なんでしょう」
「このゴーレムの残骸の山を見て、何か気づくことは無いかね」
「えっ……それは僕にもわかることなんですか?」
「わかる。絶対にわかる。曲りなりにゴーレム研究に手を付けてるなら、一目見てわかってほしい」
「へぁっ!? え、えっとですね……」

 マートはおろおろとあたりのゴーレムたちを調べる。
 わかるかなー? わかんないかなー?

「……あ」
「何がわかったか?」
「このゴーレムたち……2種類いますね」
「うんうん。それから?」
「えーっと……1つは、普通の、よくある土人形のゴーレムで、もう一つは、もっとちゃんとした……多分ですけど、人格があるレベルのゴーレムなのでは?」
「よろしい」

 土人形――土くれに魔力を吹き込んだ、簡単で使いやすいゴーレム。力が強く、丈夫で、大量生産しやすいので、土木作業や戦闘における壁としてよく使われる。この場に散らばっている無数の土の山は、このゴーレムたちのものだ。
 それにたいして、この『ちゃんとしたゴーレム』は……。
 体のパーツ1つ1つが独立して作られた、『ドール』のようなタイプのゴーレムだ。
 関節から指から――顔どころか眼球まで精巧に作られている。人形職人なら、一品物でこれくらい作れるだろうが、床に散らばる残骸たちを見るに、大量に作られている。
 恐らくこの遺跡を守っていたゴーレムたちだろう。
 素材自体は、今の時代にもあるもので作られているが、その出来が素晴らしい。俺が同レベルのものを作るのは、少々骨が折れる(作れないとは言ってない)。
 遺跡守りのゴーレムでこのレベルなのだから……いったいここに何があったんだろうなぁ。もう残ってないんだろうなぁ。それとも旧世界ではこのレベルのゴーレムが普通だったのかなぁ。

「……これ、パーツを集めて一人のゴーレムになりませんかね」
「なる。だから集めようねー」

 腰のホルダーから試験管を一本取り出し、蓋を開けて傾ける。とろりと垂れた液体が地面に落ちて、もりもりと体積を増していく。

「クローネ」

 液体にゴーレムの術式を付与する。

『はぁーい』
「お掃除だ。ゴーレムの残骸、土くれとそれ以外を分けてくれ。土はいらないから、そのまま練りこんで体にしていい」
『はーい』

 動き出した『クローネ』が、あたりのものを何でもかんでも取り込んでいく。しばらくしたら、必要なものだけ外に出して、それ以外を体に作り替えるだろう。

「さて、我々は何かめぼしいものが残ってないか探すか」
「はい先生」

   +   +   +

「……なにもないですね」
「やっぱなー」

 予想通り、何もない感じ。
 本当に何もかも、根こそぎやられてる。
 残留魔力やら、配線がしてあったと思しき痕跡などから、どうもゴーレムの研究所だったのではと当たりをつけているが……。
 本当に何も残ってない。扉まで持っていかれているのだから、本当にひどい。
 このままだと、成果がゴーレムの素材だけになっちゃう。
 何か見つからないものかと、サーチとソナーを撒きながらうろうろする。


「――――――――――――ん」


 カツン、と。何か違和感を踏んだ。

「……なんだ?」

 その違和感が何だったのか、わからない。
 うろうろ。

「……ここ?」

 違和を感じる場所と、感じない場所がはっきりと分かれている。
 何か違う。何が?

「……足下か?」

 この建物は、小高い丘の中に埋もれている。建物自体の下には、分厚い鋼板が敷いてあって、その上に建っている。鋼板の下には地面があるだけだ。魔力の反応からして、そのはず、である。


 ……しかし、
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