日本国国土防衛軍第16師団笹鳥駐屯地上空に未確認の発光体が出現したのは第三次世界大戦が終戦してちょうど5年という記念すべき日のことであった。
突如として出現した発光体は駐屯地がすっぽり入るほど巨大であった。一報を受けた駐屯地指揮官の大谷源三郎陸将は駐屯地内全隊員の緊急避難を宣言、隊員達は荒れ狂う波の如く人海をなし基地外へと避難を開始した。この大谷陸将の迅速な指示より多くの隊員達が避難したが、再び発光体が眩い光を放つと逃げ遅れた大谷陸将含め約500名の隊員が笹鳥駐屯地ごとその姿を消したのである。
「悪い。寝坊した…」
そう謝罪しながら第16師団笹鳥駐屯地所属偵察部隊第2小隊隊長である蒼崎 志道二等陸尉は暗緑色に塗装されたジープ系統の高機動車の運転席に乗り込んだ。すでに助手席や後部座席で待機していた隊員達は隊長である蒼崎の遅刻に眉を顰めながらさっさと運転しろという視線を蒼崎にぶつける。
蒼崎志道は笹鳥駐屯地の中で厄介者として呼ばれている。規律を重んじる軍人でありながら如何にして規律に触れずに仕事をサボるかといった間違った方向に力を注ぐ馬鹿であり、訓練生時代も教官の目を盗んで訓練を抜け出すのは日常茶判事、挙句の果てには颯爽と逃走した蒼崎を目標とするフォックスハンティングまで行われる始末であった。常識的に考えれば規律も守れない蒼崎が軍人になるなどあり得ない話であったのだが、結局蒼崎は一度も捕まることもなく逆にこれが上層部の評価を上げることになり同期や教官に「なんでこんなやつが」と非難されながら軍人となった。
「ふぁ〜まだ眠ぃ……」
睡眠不足の人間に車を運転させることに不安を覚える隊員達をよそに蒼崎は高機動車に取り付けられたトランシーバーの電源を入れた。
「あ〜黒島一佐、黒島一佐。こちら偵察部隊第2小隊の蒼崎です。聞こえますか?」
蒼崎の言葉にワンクッションおいて返事が返ってくる。
「応、聞こえてる。予定より10分遅いぞ。何してた?」
「え〜整備に時間がかかりました。遅れてすいません…」
上官からお叱りを受けるのが面倒だった蒼崎は適当に嘘をつくと隊員達から舌打ちが飛んだ。黒島は特に言及することもなく話を続けた。
「すでに第1、第3、第4小隊が偵察に出ている。お前達第2小隊は東側の偵察だ」
「了解です黒島一佐。これより出動します」
蒼崎はトランシーバーを切ると、窓から手を出して後方で待機している2号車に合図を送る。バックミラーから二号車の合図を確認し、蒼崎はアクセルを静かに踏み込んだ。薄暗い格納庫から出ると、そこに日本の経済成長を象徴するビル群はなく、大戦の煽りでほとんど姿を消したはずの緑の大地が広がっていた。
「異世界探険だ。気合い入れてくぞ!」
笹鳥駐屯地およびその隊員500名は日本とは別の図鑑世界とよばれる異世界にいた。
親魔物領オルジニアの西端に位置する広大な草原地帯で騎士のミレイナ・ハースバルトは握りすぎて血の滲んだ手綱を引きながら馬車を走らせていた。馬車を引く2頭の馬は息を荒げ、泡を吹き、血の汗を噴き出して今にも息絶えそうな状態であった。それでもミレイナは馬車を止めようとはしない。そうでもしなければ自分達が殺されるからだ。
彼女の暮らすオルジニアは一夜にして滅ぼされた。首都近郊から突如として大軍で攻め込んできた謎の傭兵集団によりオルジニアは為す術もなくあっさりと陥落したのだ。ミレイナは首都陥落寸前に国王から国王夫妻の娘つまり王女を逃がすよう命を受けた。ミレイナはすぐさま残存する騎士団をかき集め強引に首都から脱出した。しかし傭兵団も易々と逃がしてはくれなかった。倍以上の追跡隊がミレイナ達を昼夜問わず追まわし、騎士団の仲間は一人、また一人と数を減らし、残ったのはミレイナだけとなった。
「頑張れ!頑張ってくれ!」
二頭の馬に激励の言葉を贈るもそんなことを馬が理解するはずはない。だが、主の気持ちが伝わったのか二頭は唸るとその満身創痍の体のどこから力があふれるのかさらに加速した。
「ミレイナ様!敵が弓を構えております!」
馬車に乗っている侍女のフィネの言葉にミレイナは舌打ちする。馬車の後方、50を超える追跡隊が馬に乗り、土煙を上げながら迫っていた。その前列からはすでに矢が放たれ、無数の矢が馬車目掛けて弧を描く。
「ミレイナ…任せて」
馬車の中からか細い声が聞こえると、讃美歌のような旋律と共に馬車全体を光の膜が包み込んだ。
「ロア!無理はするなと言っただろ!」
ミレイナは叫ぶが、それと同じくして矢が時雨の如く降り注ぐ。馬車にあたる矢は尽く結界に弾かれ、折れるか地面へと突き刺さった。
「無理をしなければ助からない…」
さらに旋律が続き、馬車
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