目を開けると教室程度の広さの部屋に立っていた。
妖精が目の前に浮いて歓迎の挨拶をしてくる。
「えー、このたびは――」
意味の無い前口上は聞き流す。
「―――以上が禁止事項です。マナーを守って他のプレイヤーと仲良くプレイしてくださいねー!」
最後に禁止事項を説明されて終了。
わざわざ説明されなくても常識で考えれば分かることだらけだ。
「あ、そうだ。下僕設定はONにしますかー?」
下僕と何なのか。
「下僕というのはプレイヤー一人一人につくサポートキャラです。
ヘルプ機能も兼ねているのでぜひONにして冒険することをオススメしますよー?」
目の前に現れるウィンドウ。選択肢はON,OFFの二つだけ。
オススメというならONにしておいた方がいいだろう。
「はい、設定がONになりました! あなたが自分の部屋で目を覚ませばすぐそばに下僕がいるので、細かい説明は彼女に訊いてくださいねー!」
妖精の声とともに、視界はホワイトアウト。
次に視界が戻った時は部屋の中。
「初めまして。……認めたくないけどあなたが私の主人ね」
声のした方を振り向くと金髪の女がこちらを見ていた。
ずいぶん綺麗な女だ。まあ、ブサイクなキャラなんて誰得だから存在しないんだろうけど。
「ジロジロ見ないでもらえる? 気持ち悪いから」
……どうやらかなりきつい性格らしい。こんな下僕といっしょに冒険なんてできるのだろうか。
とりあえず目の前の下僕がどのくらいの強さなのかステータスウィンドウを開いて見る。
えーと、下僕の項目は……うわ、すごっ!
彼女のステータスはあらゆる面で自分の二回り以上の数値だった。
さらにHPの自動回復や、一部の魔法への耐性など、
はっきり言ってLV1でこれは破格なんじゃないかと思える強さだ。
主人が自分のステータスを見て目を見開いていることに気を良くしたのか、向こうから話しかけてくる。
「どう? 私とあなたどちらが強いか分かったでしょう? 主人だからといって調子にのらないことね」
気にくわない言い方だが、事実その通り。
戦闘では大いに役立ってくれるであろう彼女にはそれなりの敬意を……って、んん?
彼女のステータスのページをめくりながら、見ていたら種族名が目に入った。
種族:ヴァンパイア。
そしてその下に並ぶ、種族固有のスキルたち。
「……何なのその目は」
ヴァンパイアの種族固有スキル。それはマイナススキルばかりだった。
昼間はステータス半減。一部魔法への防御力が0。
一定期間主人から吸血しないと経験値ロスト。
イベントは日中進行のものが多いらしいから、思ったほどの戦力にはならなそうだ…。
「あなた何考えてるのっ!? こんな真昼間から外に出るなんて!」
人間は昼行性だからこれが正しいんだよ。人通りも多いから情報収集もしやすいし。
しかしそこら中を女が歩き回っているが、誰も彼も人外女だな。
腕が翼だわ、下半身が蛇だわ、青色半透明だわ。
彼女のような純粋な人型はあまりいない。
「よく見なさい。瞳とか牙とかちがうでしょう」
どうやら人間扱いされるのは嫌らしい。しかしなんでこうも刺々しいんだ、こいつは。
気になってウィンドウを開くが忠誠度とか敵対心とかのパラメータはない。
……エサでもあげれば少しは懐くだろうか?
人のいない路地裏にヴァンパイアを連れ込む。
彼女は変なことするのかと警戒した感じだが、自分にそんなことする度胸はない。
「こんな所に連れてきて何の真似?」
元から低いご機嫌度がマイナスに突入しているのか、イライラ感が目に見える。
そんな彼女に腕を突き出す。ほれ、食え。
「……何してるのあなた?」
なにって食事だよ食事。吸血。経験値ロストが怖くないのか?
まあ、自分達はまだLV1だけど。
「腕に口付けて吸えっていうの? 蚊じゃないんだから馬鹿にしないで」
そう言われてもな。採血は普通腕からするものだろ。
「仕方ないわね。結局主人の血液無しにはいかないわけだし……」
ヴァンパイアはブツブツ言っていたが、飲んでくれるらしい。
よしよし、餌付け第1段階終了―――あん?
ヴァンパイアが抱きついてきた。
え? この当たってるのなに? 胸? ヤバイ、柔らかい。
首筋に彼女の息が当たる。うお、何かゾクゾクする。
ペロリと濡れた感触。舐められた?
サクッという微かな音と共に、情報ウィンドウが開く。
『パラメータが追加されました』
自分のステータス一覧に蝙蝠マークの謎ゲージが新しくできた。
その目盛りは%表示。
なんか自分の横のコクコクって音と一緒に値が上がってるんですが……。
1分ほどで吸血が終わったのか、ヴァンパイアは身を離した。
「ふう………悪くない血」
そりゃ仮想世界なんだから、現実で貧血だろうが高脂血症だろうが
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