回数制限無限回

人間誰でも衝動買いの一つや二つしたことはあるだろう。
店で見かけたある品物が妙に気に入って深く考えず購入してしまい、頭が冷えた後で『高い金出してなぜこんな物を買ってしまったのか…』と後悔するアレだ。
そして今の自分も後悔こそあまりしていないものの、一時間ほど前に衝動買いしてしまった物品を前に首をかしげている。
そう、どう使うのか分からない、アラビアンなランプを前にして。



自分がそれを見かけたのは、近くの公園で数か月に一度行われる蚤の市でのことだった。
別に掘り出し物を探そうとかそういう気はなく、散歩がてらに眺めてみようか…程度の気持ちで露店が立ち並ぶ中を散策していたら、有名なアニメ映画にも出てくる『魔法のランプ』と同じ形をしたそれが目に入ったのだ。
そして一目見たその瞬間、無性にそのランプが欲しくて欲しくてたまらなくなった。
小学時代から高校生に至るまで貯めてきたお年玉貯金と引き換えにしてもかまわないと思えるほどに。
幸いなことにそのランプは手持ちの小銭数枚で買えるような値段であり、どんな顔だったのかも思い出せない店主からそれを買い取った自分は散策もやめて家に直帰。
簡易な包装をランプから剥ぎ取り、居間のテーブルの上に置いたところでふと我に返った…というのが今の状況である。

……いやほんと、どうしたらいいんだこれ。
ランプとは言うものの火の灯し方なんて知らないし、そもそも燃料がない。
この家ではそれこそインテリアにしかならないだろう。
まあガラクタ同然の値段だったし、年末年始ぐらいにしか返ってこない両親も無駄遣いだなんて小言は言わないだろうから大した問題でもないが。

とりあえず玄関にでも飾っておくか…と自分はランプを手に畳から立ち上がるが、その時ふと心に悪戯心が浮かび上がった。ごっこ遊びではないが、アニメの『魔法のランプ』のようにゴシゴシッとこすってみたのだ。
もちろんそんなことしたところで何かが起きるわけでもない…と思ったら、最大設定の加湿器のように物凄い勢いで煙が噴き出した。

えっ!? ナニコレ!? まさか本物の魔法のランプ!?
目を見開いてそう驚く自分の前で煙は人型を象り、見る見るうちに世にも可愛らしい少女の姿を現す。
ハーレムの女性が着るような露出の多い衣装。それを纏っている少女は閉じていた目を開くと快活な声で喋った。

「どうも初めましてご主人さまっ!
 わたしはランプの精霊、あなたの願いを三つ叶えましょう!」
ビシッ! と指を三本立てて宣言するその様はテンプレそのもののランプの精。
非現実的だ云々だ…はそこら辺に置いておいて、言葉通りならこれはとてつもないラッキーというべきだろう。
だが落ち着け自分よ、世界には猿の手のような落とし穴もある。
スマホの契約書の注意書きにくまなく目を通すような心持ちで臨まねば、破滅が待っているやもしれんぞ。

「んー? ご主人さまあんまり驚かないねぇ。こう言うと大抵の人間は大喜びではしゃぐって聞いたのに」
予想していた反応と違ったからか、頬に人差し指を当てて首をかしげる精霊。
自分はそれに『はしゃぐのは条件確認した後で』と答える。
それを聞いた精霊はちょっと不服そうな顔をした。

「むー、わたしは古い悪魔じゃないんだから罠なんて仕掛けないよぉ。
 まあいいや、質問があるなら何でも答えるよ。あ、これは『願い』のうちに入らないから安心してね」
どうやら単純な質問を『願い』とカウントするほど融通がきかないわけではないようだ。
ならば納得がいくまで訊かせてもらおう。やはり一番気になるのは『願いを増やすことはできるのか』だ。
自分は人間なら真っ先に思いつく強欲な願いを口にしてみるが、彼女は気を悪くする風でもなくそれに答える。

「もちろんオッケーだよ。十回でも百回でも好きなだけ増やせる。
 増やした願いでまた回数を増やすこともできるから、好きなだけ願いを叶えられるよ」
なんてガバガバな回数制限だ。それなら最初に三つの願いなんて言う必要なかったのではないのだろうか。そのように指摘すると彼女は照れ臭そうに言う。

「いやーそうなんだけど、これは伝統っていうか、儀礼っていうか、そういうものだからさ」
ただの口上であると説明し『アハハ』と笑う彼女の姿はとても可愛らしい。
……つい邪な願いが脳裏に浮かんでしまったが、頭を振ってその考えを振り払う。
では次だ。願いを叶えることによって他者へ被害は出るのか教えてもらおう。
例えば大金を願ったら両親が死んで多額の保険金が手に入るとか、世界一の富豪を望んだら全人類を抹殺して『あなたを世界一の富豪にしました』とか、そういったことがあるのかどうかだ。
今度の問いに対しては精霊は少し難しい顔をする。

「うーん、願いの内容によっては全くの無被害とはいかない場
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