一口に悪人と言ってもその種類は様々で、厄介さを簡単に比べることはできない。
だがその中で最も厄介で迷惑で面倒なのは愉快犯だと自分は思う。
金が欲しいから盗む、恨みがあるから殺すというのは理解できる。
しかしただ面白いから、楽しいからなんて理由で犯行に及ぶのは全く理解できない。
そういう危険人物は二度と塀の中から出てもらいたくないのだが、自分が関わりを持っている連中はホイホイ脱出してくるのでストレスがやや溜まり気味だ。
四月も終わり、明日からはゴールデンウィークに入るという嬉しい日。
学校を終えて帰宅した自分は、ナナシノと表札の掲げられた玄関をくぐるなり居候の天使に詰め寄られた。
「やっと帰ってきたっ! もう、遅いですよムメイさんっ!」
去年の年末に拾った異世界の天使を名乗る女の子。
アンジェという名の彼女がここまで慌てふためくのは一つの事態をおいて他にない。
自分はため息一つ吐いて、彼女に訊ねる。また逃げ出したのか、と。
「ああっ、そう! そうです!
アーカン病院から連絡があって、ダイヤの10がいなくなったって!」
アーカン病院というのは地元にある精神病院で、隔離が必要な重症患者を鉄格子つきの部屋に収容している。アーカンというのは『開かん』のもじりで、閉じた鉄格子が二度と開かないという意味で創設者が付けたらしい。
病院は病気を治す施設じゃないのか? と思わなくもないが、今はどうでもいい。
問題は逃げ出した奴だ。ダイヤの10というと……。
「そうです! トランパート四人組の中でも最悪なあのダイヤですよ!」
帽子屋と並び最も厄介な奴が脱走したと知り、うわー…と天井を見上げる自分。
去年の十二月以来、さまざまな魔物たちと追いかけっこして捕獲してきたが、
トランパートのダイヤは特に派手好きな面があり、最も面倒な魔物の一体なのだ。
病院スタッフには患者の管理をキチッとしてもらいたいが、魔法や特殊能力を用いる彼女らを何も知らない彼らが留めておくのは難しい。
そのため脱走されては捕獲して…のいたちごっこがずっと繰り返されている。
「ムメイさん! もう情けなんてかける必要ありません!
今度こそ完全に息の根を止めましょう!」
殺害して二度と逃げ出さないようにしろと主張するアンジェだが、それに頷くことはできない。
自分は平和な日本で生まれ育ったただの高校生。
敵は人間じゃないと言われても、言葉が通じる相手を殺すのは怖いのだ。
せっかくの連休が潰れて、少し鬱が入るとしても。
「じゃあムメイさんはこの世界が魔物に侵略されてもいいんですか!?
あなたの母親やクラスメイトが人間でなくなるんですよ!」
それとこれは話が別だ。
こっちの世界で『侵略者は容赦なく殺していい』が許されたのは昔だけなのだから。
今回逃げ出したトランパートのダイヤを含む、魔物と呼ばれる者たち。
アンジェの説明によると彼女らは異世界の邪悪な存在であり、特に自分と顔見知りの連中は『不思議の国』という場所から来たらしい。
その真の目的は不明だが、魔物の仲間を増やし悪事を働くのは確実。
アンジェはそれを防ぐために天界の命令で魔物たちを追ってきたのだそうだ。
現地協力者として勇者一人を作れる力を渡されて。
ところが、不運な事故でその力は漏出、さらにアンジェ本人も衰弱してしまい、
魔物と戦うどころか自身が生き延びるのも厳しい状況に追い込まれた。
最終的に雪が降る夜、家の前で行き倒れていたのを自分が発見し、
家事全般その他をやってくれるという条件で居候させることになったのである。
「いいですか、ムメイさん。そもそも奴らは―――」
ひたすら魔物抹殺を主張するアンジェに対し『殺しをする気は一切ない』と改めて告げる。今のところ犯行は収拾できているんだから、それで勘弁してくれ。
『この話はもうお終い』との意思を込めて自分はそう言い切る。
アンジェの方も打ち切られたその場で議論を再開する気はないのか反論はしなかった。
自分はようやく靴を脱ぐと、廊下を歩きながら脱走の話を細かく聞く。
それで、ダイヤが逃げ出したのは何時ごろなんだ?
「毎回のことですが正確な時間は分かりません。モブさんが三時ごろに病室を通りがかった時はいたそうですから、逃げ出したのはそれ以降の時間です」
彼女が口にしたモブさんというのはこちらの事情を知っている希少な協力者だ。
眠りネズミが起こした事件の最中に出会い、危うく魔物にされる所を自分が救った。
奇遇にも彼女はアーカン病院のスタッフであり、魔物たちに何かがあった際はすぐに連絡をくれることになっている。
それにしても三時以降とは……だとすると動き出すのは明日からの可能性が高い。
連休で人の移動が多くなるし、事を起こすならそれに紛れてやると思う。
「ええ、わたしも
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