パーティバランスどうですか?

宗教国家レスカティエが、魔界国家レスカティエへとあっさり変貌してしまった要因。
その理由を道行く人々に訊いたとしたなら、大抵の人は口をそろえてこう言うだろう。
『デルエラ様とその部下たちの力が強大だったから』と。

確かにそれは間違いない。要因の九割ぐらいはそれだろう。
ではそれを第一要因として除外したとしたら、第二要因は何であろうか。
この問いへの答えは各々によって大きく変わるだろうが、騎士団員やその関係者に訊いたとしたなら、かなりの確率で『深刻な士気不足』と答えるはずだ。

底辺とはいえ一応勇者の身分だった自分がいうのもなんだが、以前のレスカティエは本当に酷かった。大小はあれど、大勢の勇者が心の中に無気力感を抱き、熱意もなく義務として役目を果たしていた。
少しはいた熱意ある者も『友人や家族、大切な人のために戦う』といった個人レベルであって『レスカティエや人類のために戦う』という“高潔な意思”とやらを持った者がはたして存在したのかどうか。

底辺勇者だった自分は言うまでもなく無気力派であり、親しい人のために戦いはすれど熱意は皆無だった。レスカティエの敗色が濃厚と見えてきたころには、元から低かった士気は限りなくゼロに低下。
『こんな国もうどうなっても構うものか』と思い、一緒に行動していた仲間と脱出しようとした。だが、そのときにはすでに遅かったのだ。

自分と違いそれなりに腕が立つ勇者だった姉さ…レイヴとそのお伴だった騎士ナイ。
魔物の魔力によって汚染されていく街の中、徐々に体調を悪化させていった二人は自分の目の前でついに魔物と化した。
頭部から角を伸ばし、腰から翼を生やし、尻から長い尻尾をくねらせるサキュバス。
節穴な自分の目に完全に魔物と化した二人の姿が映ったとき、自分は完全に戦意を失ってしまった。彼女たちと脱出するためならまだ必死になって抗えたが、その二人が人間でなくなった以上、もはや戦う意味などどこにもないのだから。
……まあ、二人を敵に回しても十中八九勝てないので、痛い目にあう前に降参しようという思惑もあったけど。

と、そんな感じであっさり白旗をあげてしまった自分だが、当然ながら酷い目にあわされることはなかった。
もちろん二人揃って『おまえのことが好きだったんだよ!』と告白されたことには驚いたし、ナイはともかく、両親が同じレイヴと交わることにそれなりの忌避感が働いたが、それだけ。

レスカティエで勇者と認定された中でも、その力は下から数えた方が早かった自分。
同じ勇者のみならず、一般兵たちまでもが陰で笑っていたのを知っている。
だというのにそんな底辺勇者を決して軽んじることなく敬ってくれたナイ。
サラッとした長髪を頭の後ろでまとめたその姿は人間だったころから美しく、
そんな彼女が心の底から愛してくれることが嫌なわけもない。

『弟と違ってなかなか使える』と上層部が評していたレイヴ。
本人が優秀であるほど身内の恥は忌々しく感じるものだろう。
こんな不出来な弟を持って彼女は内心どんな思いで毎日を過ごしていたのか。
それこそ『姉弟の縁を切る』と絶縁宣言されても仕方ないと自分は思っていたのに、彼女は昔からずっと変わらず、自分を助けたり励ましたりしてくれた。
一人の人間として見れば、レイヴなんて自分にはもったいないほどの女性だ。
さらに実の姉であるという禁忌も、一線を越えてしまえば背徳的な魅力として彼女をより美しく感じさせる。
こんなわけで、無条件降伏した自分はそこら中に転がる男性らと同じく、二人の誘惑にすぐ堕落してしまったのである。



薄暗い空に弱々しく太陽が光る暗黒魔界の空。
もともと庶民だった自分の実家よりはるかに広いナイの屋敷。(本人いわく『もうネムレス様の屋敷』らしいが)
時刻も三時を回り、テラスの丸いテーブルでいつものようにティータイム…としゃれ込もうとすると、レイヴが床に置いたカバンから一枚の紙を取り出し、ペタリとテーブルの上に置いた。
『一体何なのか…』とナイと揃って身を乗り出して見ると、それはイベントの告知ビラだった。

「迷宮探索競技…ですか?」
ナイが紙の一番上に書かれた文字を口にすると、レイヴはツーテールを揺らして頷く。
「そう、あなたたちも聞いたことぐらいあるでしょ? 迷宮探索競技のこと。それがね、この町の近くで開催されることになったのよ」

迷宮探索競技。
それは冒険者と呼ばれる者たちの行いをモデルとした競技だ。
こう言うと夢が無くなるが、冒険者の仕事というのは犯罪のオンパレードである。無人、もしくは魔物が住む場所への不法侵入、防犯のための罠を解除・作動させての建造物破壊、宝石・貴金属などの物品を窃盗、居住者である魔物への強盗傷害……などなど。
反魔物側から見れば『魔物には一切の権利がない』から
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