三日では慣れない

よく晴れ渡った青い空。
朝という時間もあってか、まだ温度が低めで過ごしやすい空気。
教室の開いた窓から流れ込んでくる風は誰もが心地よいと感じるだろう。
本日は絵に描いたような爽やかな朝といっていいのだろうが、
自分の心はこの空のように澄み切ってはいない。

自分が登校したとき教室にいたクラスメイトは約半数。
廊下寄りの席についていつも通りにしていると次々生徒がやってくる。
夏休み中の登校日とはいえ、流石にサボる奴はいないように見受けられた。
大半は挨拶を交わすほど仲が良いわけでもないので、自分のことはスルーして席に向かっていく。
別にいまさら仲良くしたいとはこちらも思わないけど。

窓と同じように開きっぱなしの扉をくぐるクラスメイト達。
運動系の部活に入っている奴の中には、朝練の汗の臭いを発散させながら入ってくる者もいる。
そういう奴は女子からあまり良い顔をされず、モテていない。
自分だって男の汗の臭いなんて嗅ぎたくないからその気持ちは分かる。
……だがそれでも思う。クラスメイトは汗の臭いだけで済む分、まだマシだと。

雑談でざわついてきた教室の中にいても、廊下を歩く彼女の足音は分かってしまう。
最近は感覚が鋭くなっているのか、音だけで聞き分けられるのだ。
足音はどんどん近づいてきて、やがて音だけでなく匂いまでも感じられるようになる。
この世のものではない死の香りが。

開かれた扉の裏までやってきた彼女は、他の生徒と同じように教室に踏み入ってくる。
新しく登校してきた生徒に教室の幾人もがチラリと視線を向け、
そのうち男子生徒の視線は、目の保養と言わんばかりにしばし固定される。

幾人もの男子の目を集めてもまるで意に介した様子のないその女子生徒。
たしかに彼女は美しい。
まるで日焼けしていない白い肌。短くも美しく整えられた黒い髪。
身長は高すぎず低すぎずで胸は少し大きめ。
そして何より顔立ちがあまりに良くできてい過ぎる。
強いてケチをつけるなら、薄暗い陰の雰囲気を漂わせていることだが、
そんなものは気にしない奴の方が多いだろうし、気にしても些細な欠点だと評するだろう。

「やあ、おはよう」
彼女はこちらに顔を向けると、美しいソプラノの声で挨拶をした。
彼女が自発的に挨拶をするのは自分だけなので、羨みと妬みの混ざった男子の視線が集まる。
ここで朗らかに『おはよう! 今日も綺麗だね!』なんて言ったらどうなることやら。
もっとも自分には被虐趣味はないし、あまり彼女と仲良くしたいわけでもない。
なので口を開かず片手を上げて返したのだが、そうすると彼女は少しだけ眉をしかめた。
そしてこちらの席にテクテクと近づき、机に手をのせ、内緒話をするように耳元に囁く。

「……本当につれないねえ君は。
 何度も肌を重ねた間柄なんだから、挨拶くらいはちゃんとして欲しいよ」
小さいとはいえ、誰かに聞かれたら教室が騒然となるであろうセリフ。
からかいの色が含まれた囁きに、一瞬でカァッと体が熱くなる。
今の自分をよく見れば顔が赤くなっていることが分かるだろう。
彼女はクスクスと小さく笑うと、耳元から顔を離して囁きよりは大きい声で話した。

「良いねえ、今の君の反応はとっても可愛かった。
 その可愛さに免じて今回は許してあげるとするよ」
今の反応に満足がいったのか、彼女は上機嫌になって自分の前の席に座る。
できることなら反対側の窓際席とかに行ってほしいのだが、
数度の席替えにもかかわらず、自分の前後左右のどれかの位置に彼女の席は収まるのだ。
何かをしているのは確実だろうが、何をどうやっているのかはまるで見当がつかない。

鞄から教科書を出している彼女の背を眺めながら、自分は一つため息をつく。
肺から吐き出された空気には彼女が漂わせる死の匂いが含まれていた。



自慢するわけではないが、自分には霊感というものがある。
いわゆる『普通の人には見えないものが視える』というやつだ。
いつから視えるようになったのかは分からない。
霊感に目覚めそうなほどショッキングな出来事なんて記憶にないので、
もしかすると生まれつきなのかもしれない。
相当昔の記憶にもそういうモノ”を視た光景があるし。

さて、視えるのは良いことか悪いことか。
今までの経験からすると…正直あまり良いこととは思えない。
普通の人なら気づかずにすむものに気づいてしまうのは楽しくない。
霊感があって良かったと思うことなんて、今まで一度も……いや、一度はあったか。

小学生のころだが、同じ教室のグループで廃病院の探索をしようという話が出たことがある。
子供ゆえの怖いもの見たさで皆が乗り気になる中、自分だけは反対した。
その廃病院にはヤバイもの”がうろついているのを以前目にして知っていたからだ。

当然自分
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