古今東西、王には様々な人物がいる。
善政で国民に讃えられるほどの名君から、悪い意味で歴史に名を刻む暴君まで色々と。
そのような視点で自分の国の王を分類するなら……暗君だろう。
この国は今内乱の真っただ中。
その原因は王が一部の貴族を押さえることができず、暴走を許してしまったため。
王が全て悪いとまでは言わないが、従えるべき者を従えられず、
有名無実に扱われている現状では、そう評価せざるを得ない。
互いに敵対者を『国に害をもたらす不忠者』と謗り、相争う貴族たち。
彼らは私欲による争いを行うため、領民に臨時の税を課した。
農民は普段納める分だけでもカツカツ。
戦時の臨時徴収などされては、もう生活が立ち行かない。
しかし、だからといって反抗するわけにはいかない。
そんな事をすれば、村全体に見せしめを兼ねた厳罰が下されるだろう。
村一つの収益が失われるのは少し痛みを伴う。
だがそれで他の村が大人しく税を納め、争いに勝利できたなら、
お釣りがくるほどの穴埋めが可能なのだ。
自分の住んでいる村は争いの中心である地域からは離れていた。
なので戦いに巻き込まれるなどして村そのものが滅びる危険性は低い。
『とても苦しい生活だが、我々は兵士のように明日をも知れぬ命ではない。
平穏が戻るまでなんとしても生き延びようではないか』
平穏が戻るまで生きていられるかも怪しい年老いた村長。
彼は“希望を捨ててはいけない”と繰り返し村人に説き、
生きる気力を失いかけていた村を何とか保たせていた。
だが、そんな村長の努力も無駄に終わってしまったのだ。
どこからやってきたのかも分からない伝染病。
それがこの国を襲い、次々に人は倒れていった。
戦いの駒である兵士や搾取すべき領民たちが見る見るうちに減っていく中、
ついに貴族たちも『争っている場合ではない』と判断。
休戦協定を結び、自陣営の体力回復に乗り出した。
しかしその時には何もかも遅過ぎたのだ。
争いが収まったからといって流行り病が消えるわけではない。
人から人へ移っていく病は国中を包みこみ、老若男女を問わず命を奪っていく。
『ついに王様も病に罹ったらしい』と中央の噂を教えてくれた行商人。
貴重な情報源だった彼も『危ないからこの国に立ち寄るのはしばらく避ける』と言って姿を見せなくなった。
その後ほどなくして、国の辺境にあるこの村にも流行り病に冒される者が現れた。
まず最初は年老いた村長。
彼が最初に熱を出した時はただの風邪だろうと誰もが思っていた。
流行り病ではないかという不安は抱えていたものの、
老人が体調を崩すのはよくある事と思い、皆平静を保っていたのだ。
だが、発症から数日で急速に悪化した容体にそう思い込んで誤魔化すことはできなくなった。
ついにこの村にも襲来した恐るべき伝染病。
それはすぐ傍で看病をしていた村長の妻に移り、初期まで同居していた息子に移り、
家を出た息子が居候している先に移り、その居候先の住人と親しい村人に移り…と、
人伝いであっという間に村中を覆ってしまったのだ。
この病は発症から僅か一週間で命を落としてしまうほどの凶悪性を誇る。
最初の感染者である村長が亡くなったのを口切りとして、
この村は連日のように死者が出るようになった。
一昨日はあそこの家、昨日はむこうの家、今日はそこの家という具合に。
(自分を含む)生存している村人は揃って敬虔な主神信者になり、祈りを捧げるようになった。
“これからは教えを固く守って生活します。ですからどうか病気から護ってください”と。
しかし、そんなにわかな祈りでは天に通じなかったのか、
それとも初めから助けるつもりがないのか、状況が好転することはなかった。
伝説のように天使が降臨して病を追い払うなんて奇跡、夢のまた夢。
一人、また一人と熱を出し、床に伏せ、衰弱して死んでいった。
そして、ついに自分の首にも死神の鎌がかかる時が来た。
体質の問題か、それとも成長期で体力があったからか、
自分が病を発症したのは村の中で一番最後だった。
朝目が覚めた時に感じた微熱と震え。
初めてそれを自覚したときは“ついに自分にも来たか”と達観していた。
仲の良かった人から嫌いだった奴まで、誰も彼も死に絶えてしまったこの村。
“自分だけ生きているのはおかしい”とさえ考えていた自分にとっては、
死の病に冒されたこともさして衝撃にはならなかったのだ。
その日は平静な心持ちで、普通の風邪にかかった時のように過ごせた。
次の日に目が覚めた時には体調が明らかに悪化していた。
真っ直ぐ立っていられない。
トイレに行くのさえ壁に寄りかかりながらヨロヨロ。
体の節々は痛み、呼吸をすることさえ苦しい。
食事を取るどころか少しばかり水を飲むのが精一杯で、それさえ吐き気で戻して
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