何のとりえもない平凡な男子高校生が突然異世界へ。
マンガやアニメでは手垢が付くほど使い古されたパターンだ。
そして世界を転移した主人公は特別な力を得て大活躍、
あるいは得なくても現代知識を活用して一目置かれるというのがお決まりの展開。
自分も中学生二年生くらいまでは、他作品から持ってきた超パワーを得て戦う妄想をよくした。
だが、現実はそこまで甘くなかった。
夏休みの半ば、近場の海へ夜釣りに行こうと自転車をシャコシャコしていた時の事だ。
気分よく下り坂をシャーッと飛ばしていたら、進路上に次元の割れ目的な物が突然出現。
自分はそれに驚き避けようとしたが、地球の慣性は回避を許さない。
強引に曲がろうとした車体は横転し、グルンと宙を回転しながら割れ目にホールインワン。
グネグネした言いようのない感覚を一分か一時間味わったあと、
どことも知れない山の中へ、つばを吐くようにペッと放り出された。
周囲は真っ暗な山林。美少女の召喚士なんて影も形も見えやしない。
何か特殊な力でも手に入れたかと、跳ねたり気合を入れてみたりするが何も起きず。
都合よく超能力なんて発現しなかった自分は転がっていた自転車から荷物とバッテリー式のライトを外し、人間を求めて夜の山を下り始める。
素人が夜の山をうろつくなど危険極まりないが、助けが来る見込みなどないのだ。
強い不安感に大人しく夜明けを待つことなどできない。
自分は得体のしれない獣の遠吠えに怯えながら、一晩の間山中をさまよった。
そして朝になり山の陰から太陽が顔を出した頃、ようやく小さな山村を発見した。
どういうわけか山村の住人とは言葉が通じた。
どこから見ても日本人ではない外見に、聞いたこともない発音。
アルファベットに似ているけど英語ではない文字列。
全く未知の言語なのに、自分にはそれらの意味が理解できたのだ。
初めて村人と出会った時、その人は驚き警戒した。
まあ、日本人の顔つきに釣り用の衣服な自分は警戒されても仕方ないだろう。
だが“害意はない”と彼らに通じる言葉で話せたおかげで、攻撃されるような事はなかった。
いやまったく、言語能力というのはヘタな攻撃能力よりよほど重要だ。
もし自分が岩を砕ける程の力を得ていたとしても、言葉が通じないのでは野垂れ死には確実。
会話ができたおかげで自分は村長と面会することができたのだ。
迷い人という扱いで村長と会った自分は全ての事情を話した。
違う世界で暮らしていた事や事故のようにこの世界へやってきた事まで全て。
そして説明が終わると、無言で聞いていた白髪頭の村長は口を開いた。
「……事情は分かりました。大変な目に遭われたようですな」
え、信じてくれるんですか?
もちろん信じてくれないと困るのだが、あっさり頷いてくれるとは思わなかった。
良くて半信半疑、悪ければ妄言扱いされると予想していたのに。
“意外だ”という内心が顔に出ていたのか、村長は苦笑いを浮かべて語る。
「まあ、普通なら信じないでしょうな。
ですが、この付近では数十年に一度ぐらいそういう事があるのですよ。
なので“異世界から来た”という言葉は無下にできんのです」
なるほど。この地域は世界の壁が薄いとかそういう系の場所なのか。
だから異世界からの来訪者を名乗っても、簡単には変人扱いされないと。
この辺りの事は分かりました。
それでここからが本題なんですけど、異世界から来た人たちはどうなりました?
いくつもの前例があるなら、帰る方法が分かるかもしれない。
そう期待して村長に訊ねる自分だが、彼は難しい顔で答えた。
「来訪者たちのその後はまちまちです。
村を出て行く者から、この村に腰を下ろして骨を埋めた者まで。
言い辛いのですが……元の世界に帰る姿を見たという記録は一つもありません」
少なくともこの村から帰る手段はないと告げる村長。自分は天を仰ぎ嘆息する。
その姿がヤバそうだったのか、村長は慌ててフォローした。
「いや、帰る手段がないと決まったわけではありませんぞ?
もしかすると村を出て行った中には帰れた人がいるかもしれません。
それにあなたにその気があるなら、我々は村人として迎えます。
ですから、決して早まった事はしないでください」
楽な自殺の方法を考えていた自分の耳に入る村長の言葉。
それでこの人は良い人だと感じた。
だって突然やってきた余所者の命なんかを心配してくれるんだから。
……そうですね。まだ諦めるには早いですね。
すみません、この村のお世話になっていいですか?
「ええ、もちろんですよ。しばらくは我が家に泊まってください。
この村には空き家や野ざらしの畑がありますから、
一人で住むのはそこを片付けてからということで……」
しばらくの間面倒を見てくれるという村長。
はた
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6..
12]
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想