フィクションでは『オカルト研究会』なんてものが学校にあったりする。
たいていの場合少人数の同好会で、その員数に反し専用の部屋をもっているものだ。
だが現実的に考えればそんなことはありえない。
まず教師の承認が下りない。
オカルトを健全な学生の趣味として認める学校なんて普通存在しないだろう。
その次には部屋の問題。
最近は少子化傾向とはいえ、全く使われずに余っている教室なんてそうそう無い。
もしあったとしても、より真っ当な部や同好会が獲得に走る。
『オカルト研究会』が彼らを押し退けて使用許可を得るのは難しいだろう。
他にも諸々の理由があるが、以上の二大理由により『オカルト研究会』が学内で活動するのは至難を極める。
そう、至難を極める…………はずなのだが。
「なーに言ってるんですか先輩。不可能を可能にするのが魔法ですよ?
“至って難しい”程度の壁を越えられなくて、どこが魔法使いですか」
分かってませんねえ…と肩をすくめて笑うのは、自分の後輩にして『オカルト研究会』部長。
長い横髪を纏めた彼女は、魅了の魔法を垂れ流してるんじゃないかと思えるほど可愛い女の子だ。
彼女は“とある手段”で半ば物置と化していた空き教室を不法占拠した。
さらには私物を持ち込み、好き勝手に内装を変えている。
一応ここは私立高だが、彼女は理事長の孫やら何やらという特別な立場ではない。
(実際に理事長の孫だとしてもこんなことできるとは思えないけど)
後輩は細々とした物を収納した戸棚(私物)からロウソクを取り出す。
赤い色をしたそれを燭台に刺すと、机の上に置いてこちらへ差し出した。
「じゃあ先輩、これに火を点けてみてください」
彼女はそう言うが、着火道具の類はこの部屋には無い。
魔法を使って明かりをつけてみろということだ。
自分は人差し指をロウソクに向けて強く念じる。
燃えろー、燃えろーと。
だがしかし。
「やっぱり点きませんかあ……。まあ、あまり期待はしてませんでしたけど、どうです?
魔力の流れは感じ取れました?」
彼女は明け透けに“魔力”と口に出す。自分はそれに渋い顔をして横に首を振る。
流れなんて全然分からないよ。本当に自分に魔力があるの?
魔法の存在を疑う気はないが、自分にも魔力があるという彼女のセリフは信じ難くなってきた。
「それは保証しますよ。私と先輩の間でちゃんと循環してますから」
そう言われても、全然進歩が無くて嫌になってきた……。
「先輩は感覚が鈍いみたいですからねー。もっと魔力量が増えれば、自覚できるかもしれません」
そう言ってついっ…と指を振ると、ロウソクの芯にポッと火が点る。
これはもちろん手品なんかじゃない。今彼女が使ったのは魔法。
この世界ではおとぎ話の中にしか出てこない神秘の業だ。
自分が彼女に出会ったのは、一年生が入学して一週間ほど経った頃。
運動系・文化系問わず、あらゆる部が新入部員を確保しようと躍起になる中、
新入生の証であるリボンを胸に付けた一人の後輩が勧誘活動をしていたのが目に留まったのだ。
「誰か私と活動しませんかー!? 一緒に神秘の世界へ旅立ちましょー!」
『オカルト研究会』と大きく書かれた手持ちの看板を掲げて声を張り上げる女子生徒。
新入生の身で新しい同好会を立ち上げる心意気は立派だと思うが、現実は残酷。
彼女が透明人間であるかのように、誰も見向きせず通り過ぎていく。
「危ないことなんて何もありませーん! 楽しい毎日になりますよー!」
後輩は頑張って宣伝するが誰も興味を示さない。
それでも暗い面持ちにならず彼女は勧誘を続ける。
ああまで頑張れるなんて、よっぽど好きなんだろうな。
帰宅部所属で部活動への情熱ゼロの自分にはとても真似できない。
自分はしばらく彼女を眺め続けていたが、あまりのシカトっぷりに可哀想になってきた。
悪い癖だと分かってはいるのだが、自分は誰にも相手にされず放置されている人を見ると構ってやりたくなるのだ。
そして今回もその悪癖が発動。腰かけていた中庭のベンチを立ち、看板を持った彼女へ声かけに向かってしまった。
「私と一緒に魔法の修行をしませんかー!? 別に辛くは―――」
こんにちは。調子はどうですか?
調子も何も見ていれば分かるのだが、口頭で訊くのが礼儀だろう。
初めて声をかけられた後輩は驚いたように目を見開くと、にっこり笑った。
「調子は上々ですねー。さっそく声をかけてもらえましたから」
相手してもらえたことがよほど嬉しいのか、後輩はにこにこ顔で言う。
遠目にも可愛らしい子だと思っていたが、間近で見たその笑顔は遠距離の比ではなかった。
この可愛さをフルに活用すれば、男子部員ですぐ大所帯になるんじゃなかろうか?
まあ、自分はそこまでして仲良くなりたいとは思わ
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