ハズレ。

日本ではギャンブルに不健全なイメージが強い。
賭け事に入れ込みすぎて借金したり、家庭を崩壊させたり…といった感じに。
でも、外国はそうでもないらしい。

もちろん博打で身持ちを崩す奴はいるけど、それは限度をわきまえない個人の責任であって、
ギャンブルその物が悪いわけではないと考えるのだそうだ。

本来のギャンブルは自らを律することができる大人が楽しむ物。
全財産を賭けて一獲千金を夢見る、精神的お子様はお呼びでない。
そして精神的にどうあれ、実際のお子様もお呼びではない。
なにしろ“カジノで未成年にプレイさせるのは禁止”と法律でキッチリ定められている程だ。

なので両親に誘われて来ただけの、未成年である自分はカジノにいてもできることが無い。
フロア内をさまよいながら、他人がプレイしている様を眺めるだけ。
といっても、カジノ独特の雰囲気のおかげか、見ているだけでもなかなか飽きない。

例えばルーレットの赤マスにチップを山積みにしていた男性。
彼は50%の確率を外し、机に突っ伏して白くなっていた。
たぶん倍々で増えていくチップを見て、後一度だけ、後一度だけ…ってやっていたんだろう。
そして、これで引き上げようと思った最後のゲームで全て持って行かれ燃え尽きた。
彼を見て、人間引き際が大事だなと自分は改めて理解する。

そして同じ卓にいる別の男性。
彼は突っ伏している男性の数倍はあるチップを一つの数字マスに賭けていた。
それが外れ全てが回収されても、連れの女性に苦笑いを返すだけ。
あんな額をスって“残念、外しちゃったよ”で済ませる姿に、あの人はウチよりもずっと金持ちなんだろうなと推測。

他にもブラックジャックの卓やポーカーの卓を覗き込みながら自分はカジノ内をうろつく。
全体的に見て、勝って喜ぶ人より負けて悔しがる人が目につく。
まあ、小さく勝った場合は派手なリアクションを取らないだけだろうけど。

様々な人間を観察しながらカジノ内を見て回り、自分は一休み。
アルコールの入ってないドリンクを貰い、壁に背をあずけて傾ける。
フロアに空調は効いているはずだが、プレイヤーたちの熱気のせいか妙に熱い。
自分はネクタイを緩め、Yシャツの襟元のボタンを外し、パタパタと空気を送り込む。
もう夜更けだからか、体が涼しさを感じるとふわぁ…とあくびが出た。
先に帰って寝ようかな……。

両親ともフロアのどこにいるのかは分からないが、探して伝える必要はないだろう。
自分は小さい子供ではないし、ホテルはカジノに隣接している。
いくらなんでも、迷子になっただなんて考えないはずだ。
グラスを返して一足先に帰ろう…と壁から背を離したとき。

「お客さまは先ほどから見学されてばかりですね。ご自分でプレイはなされないのですか?」
ざわざわと賑やかなフロア。その中で透き通るような女性の声が耳に入った。
自分は声の出どころに目を向け―――それを見開いた。

雪のように白い髪と肌。ルビーのように赤い瞳。
アルビノは不気味さが先に立つという噂をデマだと言い切ってしまえるような美しさ。
このカジノのディーラーには美形が多いけど、その中でも群を抜いている。
こんな人がなんでディーラーの服を着てるんだ? と疑問に思ってしまう程だ。

「? いかがなさいましたか、お客さま?」
つい見とれてしまった自分に不思議そうな顔で話しかける女性。
スタンから回復した自分は何でもないですよと返して説明する。

えーとですね、自分は親の付き添いで来ただけの未成年なんですよ。
だから遊ぼうにも……。

見るだけならともかく、実際に遊ぶなら成年であることを証明する必要がある。
そりゃあ、ひげ生やしているおっさんなら、一目で分かるので証明は求められないが、
年齢の若い奴は少しでも怪しいと思われたら、年齢証明を提示させられる。
提示できない奴はプレイできないし、未成年とばれたら強制退去だ。
そもそも自分は賭ける気も金も無いわけだけど。

「そうでしたか……それは残念でございますね。
 カジノの本場にまで来て、一度も勝負できないとは……」
でも、良い勉強になりましたよ。実物の雰囲気を味わえましたし。
退屈はしなかったと自分はフォローする。
「雰囲気だけではカジノを満喫したとはとても言えませんわ。
 やはり実際にプレイしませんと……そうだ!」
良いこと思いついたと、ディーラーは手を叩く。
「お客さま、ここは一つわたくしと勝負いたしませんか?
 金銭を賭けないなら法の網にはかかりませんよ?」

未成年の賭博禁止はカジノのルールではなく法で定められたもの。
これを破ると、本人以上にカジノ側に多大な罰が与えられる。
しかしノーレートで、遊びとしてのプレイをするなら問題はない。
もっとも、法的に問題はなくても、別の面では
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