自分の両親は宗教に入っている。
といっても有名どころじゃなくて、もっとこじんまりとした、いわゆるカルトってやつ。
派閥としては洗礼とかを行う唯一神系のもの。
もちろんカルトだけあって教祖の都合の良いように教義はねじ曲げられているけど。
父がカルトに入ったのは興味本意だったらしい。
まだ大学生のころに、先輩に(母は友人に)誘われたとかで一度“集会”に行ったのだそうだ。
前評判ではそんな時間もかからず途中退室も可だったらしいが、
実際に行ってみたら、数日間缶詰で教祖の演説を延々聞かされるという洗脳コース。
終わるころには父母共に熱心な信者になっていた。
父方母方の祖父母は宗教なんて止めるよう説得したらしいが、二人はそれに反発し縁切して家を出た。
そしてカルトの修行施設で二人は出会い、意気投合して結婚、数年後子供の誕生という流れだ。
古今東西、子供は親の宗教を引き継ぐ。
自分が産まれ母が退院すると、両親はその足でもってカルトの施設へ向かった。
そしてかなりの額を払い、教祖様に直接洗礼をしてもらったのだが、そこで一つ問題が起きた。
カルトの教祖(うさんくさいおっさんだ)は自分を見るなり“この子は呪われている”と言ったのだ。
教祖いわく。
“この男の子には女難の相がある。女のために身を滅ぼす運命だ。
とても強い運命で私でも書き換えるのは難しい。だが和らげ遠ざけることはできる。
今から私の言うことをよく聞いて――――”
カルトお決まりの文句だ。
この後両親は効き目があるのか怪しいグッズを高値で買わされ、さらに寄付もさせられた。
そして“女と親密にならないこと”という御言葉に従って自分を育てたのだ。
小さい頃はそれでも問題無かった。
世界には両親しかいなくて、二人の言うことは常に正しかったから。
しかし、成長して小学校に通うようになると“ウチはおかしいんじゃないか?”と思うようになった。
周りの子たちは誰も宗教に入っていなかったから。
低学年のころは同級生も気にしなかったが、学年が上がってくると変な目で自分を見るようになった。
“あいつの家はシューキョーを信じているんだって”という風に。
前学年のときは仲良くしていた相手も段々と離れていき、やがて付き合いもなくなった。
当時の自分はそれが嫌でたまらなく、両親に宗教を止めてほしいとお願いしたりもした。
だがそれに対する両親の返答はゲンコツと怒鳴り声。
何も分かっていない汚れた奴らの戯言なんて気にするな。
教祖様に従うことこそが天国への唯一の道なんだ。
そんな感じで一晩中正座のままお説教を受け続け、次の日は睡眠不足で登校したこともある。
また“女と仲良くするな”という教祖の言葉は男女共同の教室で過ごす自分を苦しめてくれた。
小学生といえば“○○くんは××ちゃんが好きなんだってー!”なんて面白がって騒ぐ年頃だ。
両親の言いつけは理解していたが、異性への興味は抑えられるものではない。
高学年の時には同じクラスの女の子に、恋とも憧れともつかない感情を抱いたりもした。
もちろん“教祖様の御言葉”があったから、告白なんてしなかった。
それにこんな奴に好かれても彼女は迷惑だろうと考えるぐらいの頭はあった。
結局思いを伝えることなく、自分の初恋らしきものは終わったのだ。
学校の旅行で偶然撮れた、彼女と二人だけの写真を残して。
そして中学に上がる前の小学生最後の春休みのとき。
その写真が親に見つかった。
両親は教祖様の言葉を守らないなんて云々と散々にお説教をしたがその内容は覚えていない。
覚えているのは、その写真を自分の手でビリビリに破かされて、ライターで火をつけたことぐらいだ。
散り散りになった写真が灰になっていくのを見ながら自分は思った。
もう親を愛することなんてないだろうな、と。
その後の三年間の中学生活は特に記憶に残る出来事は無かった。
……いや、一つだけ忌まわしい記憶があった。
それは父がエロ本をプレゼントしたことだ。
ある日、本屋の包みを片手に部屋にやってきた父は“これをやる”とよこした。
中身は何なのかと開けてみると数冊のエロ本。
困惑する自分に向かって“それで性欲を解消しろ”と父は言う。
性欲自体を縛ってしまうと暴走しかねないから、本で適度に解消しろということなのだろう。
何のことはない“御言葉”を守らせるためのプレゼントだ。
一応もらうことはもらったが、物が物であり理由が理由なので素直には喜べなかった。
とにかくあっという間に三年間は過ぎ、自分はそこそこの高校に入った。
中学までは地元の顔が大勢いたが、高校となるとほとんどいない。
まあ、親しい奴なんていなかったから別にいいけど。
入学式が終わり、担任に連れられてそれぞれの教室へ。
事前に渡されたタグに従い、自分
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6..
25]
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想