ダンジョンといえば罠、魔物そして財宝。
一般人の認識はそういうものだし、実際そのとおりだ。
ダンジョンの奥深くに隠された眩いほどの財宝。
それがあるからこそ、どれほどの危険があろうと冒険者は挑む。
そして自分もそんな冒険者の一人。
一獲千金を夢見て単身でダンジョン攻略に挑んだのだが……。
ランタンに照らされる石造りの通路。
ひんやりとした温度は変わらぬものの、明らかに湿度が違う空気。
後ろを振り向いても、目印を付けたばかりの曲がり角はどこにも見えない。
地獄の底まで続いてそうな闇があるだけだった。
自分は目を閉じ天を仰ぐ。
……どうしよう、罠にかかっちゃった。
ほんの数秒前まで自分はこんな所にいなかった。
苔むした壁に天井から水滴が垂れる、天然洞窟を探索していたのだ。
それが一瞬にしてこんな人工物100%の場所へ移動してしまった。
おそらく噂に聞いたテレポーターとかいう罠だろう。
かかった者を瞬時に転移させるという魔法の罠。
それ単体では傷一つ付けないが、転移した先は死の罠が幸運に思えるほどの地獄だという。
よりにもよってそんな最悪の罠にかかってしまうとは……。
『ざんねん!! あなたの ぼうけんは これで おわってしまった!!』
骸骨姿の死神が死を宣告する姿が脳裏に浮かぶ。
きっとそれほど経たないうちに、その宣告は現実になるだろう。
右も左も分からない全く未知のダンジョン。
そんな中にたった一人で放り込まれて生きて出られるとは考え難い。
あまりに絶望的な状況に膝から力が抜けてしまう。
ランタンが手から離れ、カンと床で跳ねて転がった。
自分は床に尻もちをつき、両手で頭を抱える。
なんてこった……。
ベッドの上では死ねないかもとは思っていたけど、こんなのが自分の最後とは…。
閉じた瞼の裏に、過去の思い出が浮かんでくる。
義理の父によく殴られたこと。
母が死んで人買いに売り飛ばされたこと。
恰幅の良い男性が買い取って優しくしてくれたこと。
その男性が“そういう趣味”で危機一髪逃げ出したこと。
身代わりを探していた冒険者に騙されて呪い装備を押し付られたこと。
冒険者を始めてみたものの、魔物を引き寄せる装備にどのパーティからも弾かれたこと。
……考えてみればロクな人生じゃないな、自分。
つい先ほどまで感じていた絶望。
それが人々の運命を定める神への怒りに変わっていく。
自分が何をしたっていうんだ。
殴られ、売り飛ばされ、利用され、爪はじきにされ、何一つ良い事なんてなかった。
こんな人生にされるような罪を自分は犯したというのか。
だったら目の前に現れて、その罪を一つ一つ語ってみせろ。
納得できたら大人しく死んでやる。納得できなかったら殴り倒してやる!
怒りは絶望よりマシだという。
自分は理不尽な運命を与えた神への怒りを原動力に立ち上がる。
―――こんな所で死んでたまるか。絶対生き延びて脱出してやる!
決意と共に、落ちていたランタンを拾う。
ガラスの中で輝く炎をかざし、改めて周囲を観察した。
床、両壁、天井ともに石造り。
天井は背丈の倍ほどの高さで、横幅はその1,5倍といったところ。
通路のつきあたりは前も後ろも見えない。光が届かないほど遠くにあるんだろう。
さて、前へ進むか、後ろへ進むか。
突然この通路へ転送された自分には一切の判断材料がない。
出口に近いのは前? 安全なのは後ろ? 全く分からない。
考えても分からないなら勘に頼るのが冒険者というもの。
自分は未知が待ち受けている“前”へ進むことを選んだ。
前も後ろも真っ暗で何の変哲もない通路を自分は歩く。
コツコツと一定間隔で鳴る足音は、通路が催眠術をかけようとしているようだ。
単調な音と同色の壁の連続に、本当に自分が進んでいるのか怪しくなってくる。
ときおり壁に目印を付けているので無限ループしていることはないはずだが……。
―――まさか何処へもたどり着けず、永遠にこの通路をさまようのか?
そんな考えが頭に浮かび始めた頃、ようやく行き止まりの壁にたどり着いた。
材質は床と同じ石。
だが、その表面には真っ赤な蛇が描かれていた。
自分の知っている蛇と違い、頭部がやけに横に広がっている。
その蛇は体を波打たせていて、尾の先にはちょうど指をかけるような窪みがあった。
……もしかして扉?
自分はそう思い、窪みに指を入れて引っ張ってみる。
が、石壁はピクリとも動かない。
まあ、当然だろう。石の扉が人間一人で開くわけがない。
ここはただの行き止まり。
もしかしたら開閉装置があるかもしれないが、探すのは後回しにしよう。
そう考え、来た道を戻ろうとしたとき。
「―――誰ぞおるのか?」
石の扉の向こうからかけられた女の声。
その声に自分は身を固く
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