竜騎士になる方法として、幼い頃からワイバーンを育成するというものがある。
同年齢なら幼馴染として育つうちに、自然と人間を背に乗せることを受け入れる。
二人の年齢が離れていれば兄と妹、もしくは父と娘の関係になり、従順な飛竜として育つことだろう。
だがその逆をすると失敗してしまうことが多い。
つまり“年上の飛竜と年下の人間”の組み合わせである。
「ダメだっ! 私のモゲロを危険な目に遭わせられるかっ!」
厩舎ならぬ竜舎。竜騎士の騎乗する飛竜たちが暮らす建物。
その中の一室でモゲロという名の少年――成人にはほど遠い――を腕の皮膜で隠すように抱いて、飛竜は大声をあげる。
その対象はモゲロの父親。
「そうは言うがなバーン。お前も納得して今までソイツと生活していたのではないのか?」
バーンと呼ばれた飛竜はうっ…と息を詰める。
「戦争など実際には起きないと思っていたのか? だとしたら考えが甘すぎるぞ。国際情勢など容易く移り変わる。
我が国の竜騎士が張り子の虎と思われないためには、今実際に血を流して戦う必要があるのだ」
バーンの暮らしている国は周辺国との仲も良好であり、軍隊の仕事など演習と訓練しかなかった。
しかし最近、同盟を結んでいる国である事件が起こった。
一部貴族たちによるクーデターである。
幸い王家の者は脱出することに成功し、同盟国へ逃れることができた。
もし全滅していたならば話は違ったかもしれないが、王家の者が生きている以上、盟約に従ってこの国は奪還するための兵をあげなければならない。
当然一番の戦力として期待されるのは竜騎士だ。
「でっ、でもモゲロはまだ子供じゃないか!」
一応竜騎士として登録されているとはいえ、戦場に出すには早すぎるとバーンは抗う。
だが父親はその言葉を鼻で笑いとばした。
「子供? いままで散々まぐわっておいてソイツが子供だとぬかすのか!? ははっ、たいした冗談だまったく!」
バーンをバカにするように―――否、完全にバカにして笑い声をあげる父親。
彼女はギリッと牙を噛んで睨みつけるが、父親は意にも介さない。
彼はひとしきり笑ったあと、真面目な顔つきに戻り最終通告を告げた。
「所属は爆撃部隊、出発は四日後だ。準備と覚悟を済ませておけ」
これで用件は済んだと立ち去ろうとする父親。
その背に向けてバーンは憎々しげに呟く。
「……モゲロは貴様の息子だろうが」
何度も父親に向けて言ったセリフ。
いまさら違う答えが返ってくるとは思わない。
「要らん子だ。あの売女が一緒に連れて逝ってくれればよかったんだがな」
そして父親の答えも変わらない。遊び相手の厄介な置き土産だと吐き捨てる。
父親が出て行き、バタンと扉を閉めたところでバーンはようやくモゲロを解放した。
彼女の腕の中から現れたのは、実の父親からの言葉に落ちこんだ顔をしたモゲロ。
バーンは安心させるため、かがんでモゲロと目を合わせる。
「……実戦は、やっぱり怖いか?」
バーンの問いに正直に頷くモゲロ。
これは当然の反応である。戦争は大の大人でも恐怖を抱く物なのだから。
でもバーンと一緒なら……とモゲロは小声で喋る。
(ああ、私を信じてくれてるんだな……。それは嬉しいけど…)
竜騎士の基本戦術は弓矢による高所からの狙撃、もしくは爆発物等の投下である。
空中にいれば剣や槍に攻撃される恐れはなく、複雑な飛行をしていれば敵の射撃が当たる確率も低い。
だがそれでも最前線にいる以上、傷を負い死亡する危険性は常に存在するのだ。
モゲロが敵の矢に貫かれ、自分の背から落ちて行く姿など想像しただけで死にたくなる。
だから―――バーンは一つの覚悟を決めた。
その日の夜の事。
バーンはモゲロを竜舎に呼び出した。
「お前は昼間“実戦が恐ろしいか”と訊かれて頷いたな。いや、責めてるんじゃないんだ。
私だって怖いと思うんだから。こんな時間に呼んだのは叱るためじゃなくて……」
その言葉を口にすることをバーン少しためらった。
モゲロの父親の姿が一瞬で脳裏に浮かび彼女を罵倒する。
今まで散々世話になってきて土壇場で逃げだすのかと。
(ふん、別にいいさ。何とでも言え。こんな国よりモゲロの方がずっと―――)
「その……私と一緒に行かないか? ここじゃない遠く、戦う必要なんてない安全な所へ」
決定的な言葉。その意味を理解した瞬間、モゲロは息を飲む。
バーンが企てているのは脱走。
実行してしまえば二度とこの国へは戻れず、残された一族も恥さらしの汚名を被ることだろう。
(頼む、肯いてくれ……!)
母をすぐ亡くし、父に冷遇されていたモゲロを、バーンは母のように姉のように育ててきた。
モゲロにかけた愛情と時間について言えば、彼女と父を比べるなどとてもできないだろう。
だがそれでも血
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