性的な友人

世の中には変わり者というのがいる。
変わっている部分は様々で、筆記用具をキャラ物で固めるとか、
坊主刈りを通り越してスキンヘッドとか、
なんとなくで逆立ちして廊下を歩きだすとか、それこそ色々。
そして自分の友人も変わり者の一人だ。

「昼休みになったよ。食堂へ行こうじゃないか」
演劇でもしているかのような気取った口ぶり。
それに促され自分は席を立つ。

「ほら急ぎたまえ。早くしないと席が埋まってしまうよ」
そう言って友人は自分の前を走る。
自分より細っこい体なのに息を切らしもしないとか、どういう体してるんだ。

息を切らしながらたどり着いた食堂は、もうすでに人でごった返していた。
四時限目が終わるのが遅かったから、仕方ないと言えば仕方ないのだが……。

「君が遅いせいで、ほとんど埋まってしまったじゃないか。どうしてくれるんだい?」
文句は先生に言ってくれ。アンタのせいでイスに座れませんでしたってな。
「僕もそう言ってやりたいのは山々だが、生徒が教師にそんな口きけるわけないだろう?
 生意気な事言うなと、お説教されるのが関の山だ」 
だからって自分に文句を言われても困るんだが。
「そうだね。ただ言ってみただけだ」
そんな感じで軽口をたたき合いながらカウンターに並ぼうとしたら、テーブルの方から呼び声。

「おーい、こっち座らないかー」
声の主に目を向けると、4人用のテーブルを3人で占拠している上級生の集団が目に入った。
……なんかガラの良くなさそうな先輩たちだ。あんな中に一人で混ざるのは避けたい。

ありがたい申し出ですが、遠慮させていただきます。
「テメーじゃねーよ! そっちの子だ!」
まあ、そうだろうね。
友人が行くとは思わないが、どうする? と一応訊いてみる。

「君は僕が友人に一人寂しく昼食を取らせる冷血人間だと思っているのかい?」
一人寂しくって言い方はやめろ。まるで自分に友達がいないようだから。
「僕以外の友人がいたとは初耳だ。仲良くなりたいから紹介してくれないか」
その言葉に何も言えなくなる自分。そして友人は上級生たちに向けて声を放つ。
「申しわけないが先輩方、僕は彼のたった一人の友人なので一緒に食事をしてやりたいと思うんだ。
 どうか彼を憐れんで、僕を引き離すのは勘弁してもらえないだろうか」
なんだその断りかた!? 
確かに友達はいないけど、憐れまれるほど気にしちゃいないぞ!

「なんかオトコつきっぽいぞー?」
「ざーんねん、お前の負けだな! ジュース奢れよー!」
「うるせー! あんな奴とくっ付いてるなんて普通思わねーだろ!」
上級生たちは友人を誘えるかどうかで賭けかなにかをしてたっぽい。
まあ、食い下がったりせず素直に諦めてくれたので助かった。
その後も彼らは騒いでいたけど、どうでもよくなったので意識から外す。

「不愉快な先輩方だったね」
そうだな。
「君を一人ぼっちにさせようだなんて。彼らにはコミュ障の気持ちなんて生涯理解出来ないだろうな」
コミュ障言うな。手間暇かけて友達を作りたいと思わないだけだ。
「その結果が僕一人というわけだ。無理強いはしないけど、少しぐらいは他人と話しても良いんじゃないかい?」
あーもう、黙っててくれ。
話を打ち切って長蛇の列に混ざる自分。
その後ろに並ぶは自分とは釣り合わないほどに美しい少女。
そう、自分の唯一の友達は、女の子なのだ。



小さい頃から自分は人付き合いが苦手だった。
何故と訊かれても困るが、いつの間にかそういう風になっていたのだ。
対人恐怖症というわけでもないので、普通に他人と会話はできるが、そこまで。
深く入り込んで恒常的な友人関係を築こうとは思わない。

そんな風にずっと過ごして中三の春休み。
四月からの高校はどうなるだろうかと、不安と不安を抱えていたら父にある物を渡された。
「友人ができるお守りだそうだ。せっかくだから身に付けとけ」
友達がいない息子を気にしていたのか、海外出張に行った際に父がお土産を買ってきた。
別に要らなかったけど、断るのも父に悪いと思ったので、春休みの間はそれを身に離さず過ごしていた。

そして入学式。
普通は保護者も出席するが、母はおらず父は忙しいので自分一人。
特に珍しい事もなく入学式は終わり、各教室へ。
担任が自己紹介した後は、個々人の自己紹介だ。

印象に残らず無難に終わらせるクラスメイトが多い中、一人変わった女生徒がいた。
まず外見は一級品。男子生徒が息をのむ音が耳に入る。
そして口から出た声。女性にしては低めで中性的な美しい音。
「皆さん初めまして。僕の名前は―――」
彼女は女でありながら自分自身を僕と呼び、どこか芝居がかったような大仰な口調で自己紹介をした。
他の男子と同じく自分も美しさに目を奪われていたが、変わり者だな…
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