違法ペット

教団の勢力範囲は広い。
大小様々な国に影響力を持っている。
教団が魔物相手に兵を動かすとき、その国に協力を求めるなんて良くあることだ。
教団の兵士は世間一般から見れば常識人で善人だらけ。
まあ、教団兵が罪を働くなんて“よろしくない”からその辺もきっちり思想教育してるんだろう。

だが、協力する国の兵士は違う。
仕事が仕事だけに乱暴者も多く、犯罪者すれすれの奴だっている。
自分の同僚には、この職を失ったら次の日にでも賊になるだろうな……と思うほどの奴もいるのだ。
当然そんな中で働いている自分も、教団から見ればあまり“よろしくない”部類。
もっとも、今となっては“あまり”では済まないぐらいなのだが……。


自分は朝夕の二回、エサの用意をする。
メニューは安物のパンに安物の肉、安物の青物。それとコップ一杯のミルク。
安物ばかりだけど自分が食べるわけじゃないからこれでいい。
もちろん兵士は体が資本だから、自分が食べるものはある程度の質を確保している。
ペットに良い物なんて食わせられるかというのが徹底的なコスト削減の理由。

用意した食事をトレーにのせてランプを持ってくる。
カギを外し、床のくぼみに手をかけて……よっと。
剥がれた床板の先にあるのは短い階段。
この家には地下室があるのだ。

トントントンと階段を降りて、粗末なベッドで寝ている女に声をかけてやる。
おい、エサの時間だぞ。

「ふぁぁ……お帰りなさいませ。もう夕方ですの?」
目をこすりながら体を起こす女。
その身には一枚の布も纏わず、喉元には紋様が描かれた首輪がはまっている。
人間の女を裸で真っ暗の地下に閉じ込めておけば、体を壊すか精神を病むかしてすぐダメになってしまうだろう。
だが、こいつは違う。

頭に大きな二本角。
黒い羽毛に包まれた一対の翼。
ハート形の先端をもつ長い尾。
この女はサキュバス、それも堕落神という邪神を信仰するダークプリーストと呼ばれる種の魔物だ。


なぜこんな魔物を飼っているかというと……単純に捕獲したからだ。
以前教団が魔物の集落を掃討したことがあり、自分と仲間はそれに協力させられた。
幸いな事にたいした抵抗もなく制圧することができ、驚くべきことに敵味方ともに死者・重傷者ゼロ。
魔物の捕虜が大量に得られたのだ。
そして捕虜にした魔物は後々処刑するのが決まりなのだが、大量の魔物を前に不良仲間がとんでもないことを言いだした。

「こいつら、こっそり飼っちまわね?」
おいバカやめろ、なに考えてんだ……と自分を含め一部の仲間は反対した。
「だってこいつらよく見りゃ美人じゃん? ペットや奴隷にするなら持ち帰ってもいいんじゃね?」
ペットにできるなら自分もそうするけど、魔物が大人しく飼われるかよ。
「オレだってそのまま飼おうだなんて思わねえよ。だが秘密兵器があってな……」
そう言って取り出したのは、複雑な紋様が描かれた首輪。
「以前ジパングから来たっていう行商人の女から買ったんだ。
 魔物の力を封印して並の女程度に弱体化させるんだとよ」
それ本当か? かなり怪しいんだが……。
「だから試すんじゃねえか。ここにはこんなに魔物がいるんだからよ」
そいつは近くにいたゴブリンに首輪をはめて縄を解いた。
「オレとちょっと腕相撲しないか? おまえが勝ったら逃がしてやる」
ゴブリンはその体に見合わない腕力を持つ魔物だ。
腕相撲の世界王者ならともかく、一兵士が力比べをしてもまず勝てない。
「じゃ、行くぞー。3,2,1―――GO!」
結果は不良仲間の圧勝。ロクに抗いもせずゴブリンの手は机に倒れた。
そして負けたゴブリンに縄をつけ直し、ほらな? とでも言いたげに笑う。

「なあ、その行商人いつどこに来るんだ?」
さっそく興味を持った奴が声をかける。
「次の休日には市に来るだろうよ。それで場所はだな―――」
自分も含めその場にいた兵士全員が言葉に耳を傾けた。

そんなこんなで、自分も首輪を購入し捕虜の魔物をこっそり家に連れてきたのだ。
この国では非常時に備えて、一軒屋には石造りの地下室を用意するのが当たり前。
人に知られず飼うには実に都合が良い。

魔物の方も首輪に力を封印されて諦めたのか、特に反抗せず暴れたりはしなかった。
愛玩用に連れてきたんだから、下手に折檻するような事にならなくて良かったが。

ただ、不思議に思うのがこの女の態度。
嫌がる女を凌辱するのは結構面倒(知人談)だから良いのだが、それでも従順すぎる。
乱暴にすると文句を言うこともあるが、抵抗はしないのだ。
本人は快楽を楽しんでいるようだし、こっちも気持ち良くさせようとする。

では完全にペットになったのかというと、それも違う感じ。
飼い主様の顔色を窺い怯え、媚びるような色が全く見えないのだ。
一体こいつは何を考え
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