むかしむかし。
あるところにそれは貧しい一家がありました。
この家の両親はそれはまあエッチな事が大好きで、大勢の子供がいたのです。
父親は猟師で、森で獣を狩っていままでなんとか生きてきたのですが、今年は飢饉で食べ物がろくに買えません。
このままでは一家全員が飢えてしまうので、口減らしのため、まず一番年下の男の子を深い深い森の中へ捨てることにしました。
その日の朝、父親は森の中に入ったことなど一度もない小さな男の子を連れて森へ分け入り、
自分が戻ってくるまでここに居るんだぞと言い、そのまま男の子を置き去りにしていきました。
さて、親にここにいろと言われた男の子ですが、やっぱり子供。
ずっと待ってなどいられず、やがて退屈になって森の中をうろうろとさまよい始めました。
綺麗な花だ、お母さんに持って帰ろう。
珍しい虫だ、お兄ちゃんに見せてあげよう。
そんな風に楽しく探検していた男の子ですが、そのうち待っていろと言われた場所へ帰れないことに気付き泣き出しました。
どうしようお父さんに会えない、おうちへ帰れない。
父親はそれが目的だったので、元から迎えなど来るわけないのですが、男の子はもう半狂乱。
ギャーギャー泣き喚きながら、こっちが元の場所だと適当に見当をつけて駆け出しました。
さて、このとても広い森。
魔物はあまり住んでおらず、危険なものといえばもっぱら熊や狼などの野生動物。
本来なら男の子は泣き声を聞きつけた獣たちに襲われてとっくにお腹の中でもおかしくないのですが、
男の子が捨てられた辺りにはほとんど獣が住んでおらず、近寄ろうとも思わないのです。
なぜかというと。
「ん? この鳴き声……いったい何の獣だ?」
森の泉で髪を洗っていた女性は聞きなれない鳴き声に首を傾げました。
もちろんただの女性がこんな森の奥にいるわけありません。
髪を洗っていたのは緑色の翼やうろこ、尻尾をもつ魔物娘。
そう、ドラゴンです。
深い森の中なので人間は誰も知りませんが、この森には地下へつながる洞窟があり、ドラゴンが住んでいたのです。
この近くに獣が寄り付かないのはこのドラゴンのせい。
ゆっくり寝ていたドラゴンはいまさっき目を覚まし頭を洗いに来たのです。
ドラゴンが鳴き声のする方を見ているとやがて木々の間から男の子が飛び出してきました。
男の子はやっと人を見つけたと思い、涙や鼻水でべちゃべちゃのまましがみ付きました。
「なんなんだおまえ? ……おい! なんだその顔! わたしの体が汚れるじゃないか!」
ドラゴンの言葉はごもっとも。
顔をしかめ、頭なんて簡単に握り潰せそうな大きな手で、男の子を引き剥がしました。
自分を掴んだ手を見て男の子はやっと、しがみ付いた相手が人外の魔物であったことに気付きます。
そして頭からバリバリ食べられてしまうんじゃないかと思い、腰が抜けて震えだしました。
そんな情けない男の子の姿を見て、ドラゴンはため息を吐き質問をします。
「どうしてここまで来た。おまえのような子供が来るところじゃないぞここは」
男の子は漏らしそうなぐらい怯えていましたが、すぐに襲ってくる様子はないと理解し、震える声で答えました。
森にはお父さんと来た、自分ははぐれて迷子になってしまった。
その答えを聞いてドラゴンはだいたいの事情を把握しました。
(口減らしか……)
普通に考えてこんな子供を連れて森へ入る大人はいません。
仕事の足しになるどころか面倒を見る手間が増えるだけです。
それでも連れてくるとすれば、はぐれても探さなくていい子、いらない子供だけでしょう。
それに今年は飢饉で国の収入が少ない、捧げものが少ないがどうか勘弁してくれと、
略奪に行った国はどこもそう言っていましたから、口減らしの捨て子だろうと簡単に想像はつきます。
「……信じられないかも知れないがおまえは捨てられたんだ。親はおまえを探してなんかいないぞ」
その言葉に男の子はウソだ! と叫びますがドラゴンは冷酷に言葉を投げかけます。
今朝はめったに食べられない良い食事をさせられたんじゃないか?
親の様子がいつもと違ったんじゃないか?
疲れたときは親がおんぶしてまで森の奥へ進んで行ったんじゃないか?
男の子の顔が青くなります。
ドラゴンの言っていることはその全てが当たっていたのですから。
自分が捨てられた。
小さな子供にとっては世界が崩壊するようなショックでしょう。
男の子はコロリと後ろに転がってそのまま気絶してしまいました。
男の子が目を覚ましたのは洞窟の中。
といっても魔法の明りで照らされているので、真っ暗ではありません。
「やっと起きたか。もう夜だぞ」
すぐ近くにいたドラゴンが声をかけ、火にかけていたイノシシの肉を差し出してきます。
しかし焼けた肉の良い匂いがして
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