ヘルスクロスTCG

トレーディング・カード・ゲーム(TCG)というものがある。
一種のゲームで、様々な手段で敵プレイヤーを攻撃し、相手のライフをゼロにすれば勝利…というものだ。

その中に一部でカルト的な知名度を誇るヘルスクロスというTCGが存在する。
自分はちょっとしたきっかけでそれを知り、プレイしてみたいと考えた。

……ただ、カードセットを買ってみたものの、対戦相手がいない。
全くの初心者なので、交流の無い人とネット対戦するのも気が引ける。
それなので友人にヘルスクロスをプレイしてる人を知らないかと訊いてみた。

「ヘルスクロス? それなら僕もやってるよ」
え、そうだったのか?
じゃあ自分の相手してくれないか。初心者なんで色々教えながら。
「構わないよ。日付は……次の土曜日でいいかな?」
大丈夫だ。その日は学校はないし、用事も入っていない。
「それじゃあ、次の土曜日に仮想部屋でね」
次の休日にと、約束をして自分は友人と別れた。

そして土曜日。
仮想世界に作った部屋の中。
殺風景な中に一つだけ存在するテーブルセットに腰かけ、熟練者だという友人とゲーム前の会話をする。

「それで、君はどのくらいまでルールを把握しているんだい?」
ルールブックを読んでみたけど、難しく書いてあってよく分からないんだ。
だから実際にプレイしてみて、不備があったらそこを教えてくれ。
「OK、じゃあ練習試合ということで」
トン、と友人がテーブルを叩くと自分たちの前にそれぞれ山札が現れる。

カードゲームというが今は本当の紙のカードなど使用しない。
全ては仮想世界の電子情報。
紙のような触感を脳に与えているだけだ。

「まずは山札から規定枚数の手札を引く……これはわかるよね」
流石にそのぐらいのことはな。
「練習だから勝敗にはあまりこだわらないでいこう」
そうだな。まず流れをつかむ方向で。
「本当はコイントスだけど、今回は僕が先攻でいいかな?」
ああ、それでいいよ。

「じゃあゲーム開始だ。まず手札からルアーカードを出すよ」
そう言って友人は男性の絵が描かれたカードを一枚見せた。
ルアーカードというのは他のTCGでいう魔力カードのような物だ。
これを消費して魔物を召喚したり、魔法を使う。

ちなみに友人が出したカードには、

教団兵:この男性は教団兵(誠実な男性)である。

と書かれている。

友人がテーブル(ゲームでは場と呼ぶ)にルアーを置くと、
カードの上にミニチュアサイズの立体映像が表示される。

『あれ? ここどこだ、おい!?』
鎧姿の兵士は、何故こんな場所にいるのか分からないと辺りを見回し声を上げた。
もちろんこれはゲームだからAIがキャラを操作しているだけだ。
立体映像がただ突っ立っているだけでは面白くないと製作者が考えたのか、
このゲームのキャラは勝手に喋り動くのである。

「そしてキャラが出たことを確認したら、魔物カードを出す」
そして友人が次に示したのは、スライムのカード。

スライム1/1:この魔物の好みは(誠実な男性)である。

スライムというのはカードの名前。
1/1というのは攻撃力/防御力。
好みというのは、カードを場に出すための代償(コストとも言う)のタイプである。
このスライムは誠実な男性がタイプなので、それが場にいないと召喚できないのだ。

「教団兵(誠実な男性)を代償にスライムを召喚」
友人がそう宣言すると召喚ムービーが始まった。
キョロキョロしていた男性の背後に青い半透明の女性が現れる。
おーい! 後ろ、後ろー!
『きゃは! おとこのひと、つーかまーえたー!』
『なっ……! おい、離せ!』 
背後からの不意打ちで男性を押さえこんだスライム。
『だっ、誰か! 誰かいないのか! 助けてくれ!』
男性はバタバタ暴れたが抵抗むなしく、スライムに捕えられ映像が消える。
そこでムービーが終わり、場には待機状態のスライムだけが残った。
『あー、はやくかえっていちゃいちゃしたいなー』
このゲームは、男性を代償として魔物が召喚者のために働いているという設定だ。
でもあからさまにやる気を見せないってのはどうなんだ。

「そんなものだよ。僕だって恋人とは二人だけで引き籠って暮らしたいと思うさ。
 以上、ここまでが召喚の手順だ。難しくはないだろう?」
理解しているか? と友人が確認を取ってくる。
えーと、まずルアー(生贄)になる男性を場に出し、そのルアーで魔物を釣る(召喚する)…そういうことでいいんだな?
「合ってるよ。あと魔物のコストとルアーのタイプが一致しないと釣れないということも忘れないように」
コストとタイプ……。(優しい男性)が好みの魔物は(誠実な男性)では召喚できないってことだよな。
「そのとおり。それで次は戦闘なんだけど、先攻1ターン目は攻撃で
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