どこからともなく現れ人類を襲い始めた魔物。
その魔物との戦いに人類は勝利した。
そして魔物は一切の権利もなく人間の所有物として扱われる存在となった。
とある街。
よく似た姿の父親と男の子が巨大な建物へ入っていく。
その看板にはこう書かれていた。
“ペットショップ”
「いらっしゃいませー!」
建物に入ると台車で荷物を運んでいるサキュバスが挨拶をしてくる。
その首には黒い首輪がはまっていた。
このペットショップの“備品”であるという証だ。
親子二人はそれに反応を返すこともなく店の奥へと進んでいく。
最初に二人が訪れたコーナーには、無造作に壺や箱が大量に並べられていた。
箱は閉じているので分からないが、壺の中身は空である。
脈絡もなくこんな光景を見せられたら、意味が分からないだろうが商品なので説明書きが付いている。
『ミミック、つぼまじんは異空間に潜むので箱一つ・壺一つのスペースがあればそれで十分。
ワンルームマンションなど小さい部屋に住む人にオススメ』
『※姿を見たい場合は揺さぶってください。驚いて中から出てきます』
男の子は一軒建ての家に住んでいる。庭も広いのでわざわざミミックを選ぶ必要はないだろう。
しかし男の子は興味があるのか、箱の一つをゆさぶる。
そのとたん、箱がガパッと開いてミミックが顔を出す。
「うひゃぁっ! …ってお客さんか。どうもいらっしゃい。もしかして…わたしを買ってくれるのかな?」
ミミックが期待に目を輝かせるが、男の子は首を横に振る。
「えー、そんなー。お願い、買ってよー。わたしはタタミ1/4があればそれでいいからさあ」
せっかくのチャンスとばかりにミミックは誘うが、男の子は固辞する。
「うぐぐ…まあしょうがないか。じゃあ、他の子を買ってあげてね。ここにいるのはみんな良い娘だからさ」
そう言うとミミックは箱の中に戻ってしまった。
父親がもういいかと男の子に声をかけ、二人は進んでいく。
次のコーナーは森林をイメージした場所だった。
狭い部屋ぐらいの広さを持ったケージ一つ一つに、魔物娘が入れられている。
親子二人は通路を歩きながらその端から見て行く。
マンティス。
マンティスはちらりと男の子を見たがまた視線を元に戻してしまった。
ずいぶん反応が薄いが、その理由はプレートに書かれていた。
『※現在繁殖期ではないため無愛想ですが強姦すればすぐなつきます』
それを見た父親は男の子にちょっと飼えないねといって次のケージへ向かった。
アラクネ。
アラクネは手慰みに一人あやとりをして遊んでいたが、客が来たと気付いたらすぐ愛想を振りまいた。
「いらっしゃい。私を飼ってくれたら綺麗な服作ってあげるわよ。内職で家計の助けもできるし、どう?」
『※アラクネは気性が荒いので気弱な方の飼育はオススメしません』
男の子は内向的な性格なので無理だと考えケージから離れた。
エルフ。
「あら、ずいぶんかわいいお客さんね。私を飼いたいっていうなら別にいいわよ」
『※喧嘩するのでドワーフとの多頭飼いは避けてください』
家には父親が飼っているドワーフがすでにいたので、男の子は諦めることにした。
その後も進んでいく親子。
どこかのケージで魔物娘がテレビを見ているのか、ニュースが聞こえる。
『クローン反対を掲げる思想団体がクロビネ共和国の大統領に署名を送りました。
大統領はそれに対し“人間の女が過去に絶滅している以上、人類存続のためにはやむを得ない行為である。
そこまで言うなら魔物に人間を産ませる技術を開発してみせろこのバカども”と発言し――』
魔物と交わることにより男はインキュバスへと変化する。
そして生体として見ればインキュバスのメリットというものは非常に大きいのだ。
老化し衰えない体。飛躍的に伸びる寿命。
水中生活まで可能にする適応力。
食事という動物としての根本さえ覆す交わり。
世界から飢餓はなくなった。
海中都市が多数建造され人口過密は解消した。
不治の病という言葉は死語になった。
だがその代償として人間の女は絶滅してしまったのである。
ペットショップへやってきたこの親子もクローン。
男の子が育ってインキュバスになれば双子のようになるだろう。
森林コーナーを抜けて次は山岳コーナー。
森林と比べるとどこか硬い感じの魔物が多い。
コカトリス。
「い、いらっしゃいませ…。あうぅ…そんなジロジロ見ないでくださいよぉ……」
『※室内飼いしてください。外へ離すと走り出す習性があるので捕獲の手間がかかります』
家の中に閉じ込めておくのは可哀想だと考え男の子はコカトリスをパスした。
ゴブリン。
「ヒャッハー! 久しぶりのお客さ……ああっ、ちょっと待って! 行かないでぇー!」
『※性格に難有り。世紀末気分を味わいた
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