魔物の集落というものはある欠陥を抱えている。
それは人間と魔物の間に生まれるのは100%魔物のメスであるということが原因である。
もし魔物の集落だけで閉塞してしまうと、男性不足と女性人口の増加により将来の破綻が避けられない。
そのため外部から人間男性を連れて来なければならないのだが……。
「それでは過疎対策会議、第666回を開きます」
独身の魔物が集まった広場。まとめ役のアヌビスがいつものように会議の開催を告げる。
「いままでの経過ですが……」
アヌビスが声の調子を落とす。
「まったく……何の成果も出ていません……」
いつもの事だが場の雰囲気がどんよりと重くなる。
「そうだよニェー。この辺りって男の人を惹きつけるものがニャーんにもニャイんだもん」
スフィンクスが分かり切ったことを口にする。
彼女たちが住んでいる場所は遥か昔に散々盗掘されて金目のものなど何一つ残ってない遺跡。
宝物がないと分かっている魔物の巣にわざわざ挑む冒険者はいない。
「やっぱもう、力づくで男をかっさらうしか!」
グールが近くの街を襲撃して捕まえようと物騒な意見を掲げる。
「だからそれはダメって何度も言ってるでしょ。中立の街をわざわざ敵に回してどうするの。
そもそもあなたはヒャッハーしたいだけじゃない」
グールの意見は個人的欲望に基づくものとして却下された。
その後も散発的に意見が出るが、非現実的だったり効果に乏しそうなものばかり。
そんな中、おずおずと一人の魔物が手をあげる。
「えっと…メイドとかどうですか?」
発言したのはつぼまじん。
「メイドって…あのメイドのこと?」
アヌビスが訊き返す。
するとつぼまじんはこくりと頷いて語った。
「みんな知ってると思いますけど、わたし達つぼまじんは壺を通じてあちこちへ行けます。
最近の事ですけど、いくつもの街で大流行している喫茶店を見たんですね。
そこのメニューは特に珍しい物はないんですけど、ウェイトレスさんが皆メイド服を着ていたんです。
そしてお客さんの事をご主人さまって呼んでいて―――」
つぼまじんからもたらされたメイド喫茶大流行の情報。
メイド服の用意に手間はかかるが現実的な範囲であるとして“メイド喫茶”が採用された。
♂
「はーい! 街のみなさんご迷惑おかけしまーす!」
街の上を飛び回るハーピー達。
「えー、今度わたし達の村で喫茶店が開業されることになりましたー!」
足にぶら下がったカゴからまき散らされるビラ。
「男性のみなさん、どうかお越しくださーい!」
自分と歩いていた友人がヒラヒラと目の前に舞い降りてきた紙切れを手に取る。
「えーと、なになに……。○月×日メイド喫茶開店…なんだこれ?」
ビラに書かれた開店日。
古い遺跡を利用して作られた店の前に自分はいた。
本当は自分は魔物の多い所にはあまり行きたくないんだが……。
「おお、見ろ。メイドだメイド」
数少ない友人に強引に誘われてしまったのである。
一度でもいいからメイドを見てみたかったとかそんなことはない、たぶん。
まあ店の前にいても仕方ないのでさっさと扉を開いて入る。
するとタッタッタとメイド服を着たスフィンクスがやってきた。
「おかえりニャさいませ、ご主人さ―――うほっ! いい男…」
客に対する第一声がそれか。
「あ、申し訳ないニャ。2名様でよろしいですかニャ?」
スフィンクスに先導されて友人と席へ向かう。
その途中、使用済みの食器を抱えたアヌビスとすれ違う。
「おかえりなさ―――すごく……男前です……」
通路の真ん中で立ち止まるな。通行の邪魔になるぞ。
案内された席は4人掛けの広いボックス席。友人と向かい合って座る。
「モテモテだな。手でも振ってやったらどーよ?」
冗談でも言うな。自分がやると本気で好意があると思われるんだよ。
席についた今も店のあちこちから視線が突き刺さるのを感じている。
その発生源は100%魔物からものだ。
いや、男からの視線があったらそれはそれで嫌だけど。
「だったら誰でもいいから魔物とくっ付けばいいじゃねえか。
恋人がいるなら熱心にアプローチしてこないだろうし」
魔物とくっ付くのは嫌なんだよ。自分は人間の女と付き合いたいんだ。
「贅沢者め。魔物のみならず人間の女まで虜にしたいとは……。
今ならお前が喪男に刺されても俺は犯人側の弁護に立つぞ」
友人が半分本気半分冗談といった態度で言う。こいつも女っ気ないからなあ……。
というかそこまで言うならお前が魔物と付き合えよ。
「いいえ、私は遠慮しておきます。
しっかし、俺とお前でルックスにたいして差は無いのに魔物ってのはよく分からないよなぁ……」
そうだよなあ……。
まあ、昔母に聞いた話では魔物は顔より匂いに惹きつけら
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