むかしむかし。
あるところにそれはそれは美しい娘がいました。
その子は幼いころに母親を亡くし、貴族の父親と二人で暮らしていましたが、父親はやがて寂しくなったのか子供を一人連れた未亡人と再婚しました。
その未亡人……いえ、結婚したのだから継母と呼びましょう。
その継母は父がいたあいだは娘にもそれなりに優しくしてくれたのですが、父が事故で亡くなり気が触れてしまったのか、急に娘に辛くあたる様になったのです。
継母の連れ子の義姉は元から自分より美しい娘に嫉妬していたのか、これ幸いと母親と共に義妹をいじめるようになりました。
娘はぼろい服を着させられ、食事も二人の残り物、使用人どころか奴隷のような扱いにされました。
さて、この国の王子さまもそろそろいい歳です。
お妃さまを見つけようと城下町の大きなお屋敷で(※王城はどんちゃん騒ぎをするところではないのです)、
貴族から豪商まで上流階級の男女が集まる舞踏会が開かれることになりました。
ちなみに王子様のためだけでもないので男の人も参加します。王子様がそういう趣味というわけではありません。
娘の義姉も、自分が王子様の心を射止めて見せると意気込んで舞踏会へ参加します。
娘は自分も行きたいと必死で頼みましたが、当然そんなことが許されるわけありません。
「あんたなんか王子さまどころか、木っ端貴族の目に止まらないわよ。あんたを連れていったら私まで見て見ぬふりされるに決まってるわ。
あんたは、その服に相応しく家でゴミ捨て穴でも掘ってなさい」
義姉はそう言い捨てて継母と二人で舞踏会へ行ってしまいました。
二人が舞踏会で楽しく談笑しているだろう頃。
娘は義姉に言いつけられたとおり、スコップで裏庭にゴミを捨てるための穴を掘っていました。
ろくに手入れもできず髪はボサボサ、肌はガサガサ、様々な雑用でタコができ、手のひら全部が硬くなっています。
そんな姿で月明かりの下、一人さびしく土にまみれて穴掘りをしている娘は、もう自分がとても惨めに思えて涙が止まりませんでした。
一体どこにこんな貴族の娘がいるというのでしょう。もし舞踏会の門番が自分を見たら田舎娘は村へ帰れ! と蹴り飛ばされるに違いありません。
それでも泣きながら娘は穴を掘り続けます。嫌になったからといって放り出してしまえば帰ってきた二人に罵倒されひどい目に会わされるのですから。
もう現実を見たくない娘は楽しかったころ、母親がまだ生きていたころを思い返しながらスコップの土を放り投げます。
(私が小さかったころ、種を植えるー! なんて言って穴を掘った憶えがある。お母さまは服を汚してなんて叱ったけど、やれやれって笑っていたかしら。
結局芽は出なくて、私が泣いていたらお母さまが慰めてくれたのよね。もう一度種を植えましょう、今度は自分も育ててみようかって言って……)
そこまで思い返して娘は気付きました。
母親が一緒に植えた種。
あれはどう見ても植物の種ではありませんでした。娘の植え直した種の横に埋めたのは、装飾品を入れるような美しい小箱。
そして植えたあと母親はこう言ったのです。
(あなたが大人になった時、困ったことがあったらきっとこの種が実らせる果実が助けてくれるでしょう。お母さまはたしかにそう言った……!)
娘は自分が掘っていた穴から抜け出して、表の庭園へ駆け出しました。
そこには子供のころ植えた種が、そこそこの大きさの木になって葉を茂らせています。
そして娘はその木の南側、母親が小箱を埋めたところを掘り返しはじめます。
ザック、ザックとゴミ捨て穴とは比べ物にならないスピードで娘は穴を掘ります。
やがてスコップから土と一緒に小箱が放り投げられました。
(あった! お母さま、あなたの埋めた箱が見つかりました!)
娘はスコップを放り出して、地面に膝をつき手箱を手に取ります。
土を落とし、そっと開くと白い布に包まれた指輪やイヤリングなどの装飾品。
数はありませんでしたが、売ればそれだけで一財産になるであろう最上級の品々です。
(これを売ればドレス一式全部買える! この体も魔法で綺麗にすることができる! きっと次の舞踏会に出ることも……!)
娘は母親への感謝と未来への希望に初めて嬉し涙を流しました。
それはもうあまりにも嬉しくて―――近づいてくる足音にも気付きません。
「あんた、なにやってるの?」
背後から聞こえてきたのは、ぞっとするように冷たい義姉の声。
持ち上げて落とされるとはこのことでしょうか。
娘は母親が遺してくれた品々をすべて取り上げられ、さんざん罵倒され叩かれました。
あげくの果てに罰だと言って頭から水を浴びせられ、屋敷の外に閉め出されたのです。
季節は深秋。凍死するようなことはないでしょうが、娘は一晩中寒さにブルブル震えて過
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