「では、今日はお終い。日直、号令を」
教師に促され日直が号令をかける。
起立、礼。
みんなそろって頭を下げ放課後。
扉を開けて廊下へ出ると、他の教室からもパラパラと生徒が出てくる。
そのうちかなりの人数が玄関へ。彼らはそのまま帰るのだろう。
別に自由時間も訓練しろなどと声高に言うつもりは無いが、彼らは自分の将来をきちんと考えているのだろうか。
この学校を卒業したら教団の兵として、死ぬか定年になるまで魔物どもと命がけの戦いをしなければならないのに。
そんなことを考えていたら、先輩の女生徒がやってきた。
「やっほー、モゲタくん。自主訓練するの? 少しぐらい遊んだっていいと思うんだけどねえ」
この先輩は生徒会の副会長を務めている人だ。気さくな人で……何やらやたらと自分に構ってくる。
生徒会室に連れ込まれて仕事を手伝わされたり、雑談の相手をさせられたり。
訓練時間が削られて迷惑…とも言えない。
何だかんだで先輩に面倒を見てもらったりもするし。
*
昔のこと。
だいたい、10年ちょっとぐらい前。
私は気まぐれで人間の子供を助けてやった。
事故か何かだろう。私が見た光景は崩れた崖と半分土砂に埋まった男性。
そしてお父さんお父さんと縋りつく男の子。
……残念だけど男の子の父親はもう死んでいる。首があんなに曲がっているし。
それが分かっているのかいないのか、ただ呼び続ける男の子。
ここが親魔物国家ならすぐにでも魔物が来て助けてるんだろうけど、ここは反魔物国家。
もうすぐ夜になるし、そうなれば野獣が来てペロリと平らげてしまうだろう。
……街に届けてやるぐらいのことはするか。
変に怖がらせても面倒なので、人間に変装して男の子の前に現れる。
もう暗くなるわ。私が送ってあげるから街まで行きましょう。
「やだー! お父さんといっしょじゃなきゃいやー!」
まあしょうがないか。こんな小さい子が親と離れて見ず知らずの他人に付いていくなど。
うーん、どうしようか。
あなたのお父さんはもう死にましたとはっきり言うべきだろうか?
あれ? そういえばこの子の母親は?
ねえ、君のお母さんはどうしたの?
「……おはかのなかって、お父さんがいってた」
なるほど。もうすでにお亡くなりだったのか。
こんな小さいのに両親を亡くしただなんて可哀想に……。
同情からか私はその子を抱きしめる。泣き続けたせいかこの子の体は熱い。
「おかあさん……」
こんな風に女性に抱きしめられたことなんてないんだろうな。
そっと頭を撫でてやる。
そんなことをしているうちにすっかり辺りは暗くなった。
一晩中付いているわけにもいかないし、どこかへこの子を連れていかないと。
そう思っていたら崖の上から松明を掲げた人々が現れた。
「うわ、ひどいな。おーい! 無事かー! そこの子! 他の人は――モゲタ? お前モゲタか!?」
モゲタ。それがこの子の名前なのか。知り合いらしい一人の男性が繰り返し呼ぶ。
「モゲタ! いったい何が―――え。もしかして…その、埋まってるのは……」
彼も土砂からのぞく死体に気付いたらしい。
「な、なんだよ!? モゲヌ! どうしておまえがこんなことに!」
男性は縄も着けず、飛び降りるように崖を降りてくる。
男性は死体と友人だったのだろうか? 肩を落として涙をこぼした。
そしてやっとモゲタを抱いていた私に気付いたらしい。
「……ああ、どうもすみませんでした。モゲタを見ていてもらって」
大したことはしていない。あなたはこの子とどういう関係なのか。
「モゲタはわたしの甥です。久しぶりに弟のモゲヌが家へ来ると手紙があっ、て……」
よほど仲の良い兄弟だったのか、他の者も降りてきたのに隠しもせずに泣く。
顔見知りが現れたことで気が抜けたのか、私の胸で泣いていたモゲタは寝ていた。
*
父が亡くなり、自分は伯父に引き取られた。
独身で子のいなかった伯父は、自分の子供のように育ててくれた。
ある程度大きくなり将来の進路をどうするかという話になったとき、自分は兵士の養成学校へ行きたいと言った。
伯父は実戦経験もある教団の兵士でその危険さを知っていたから、当然反対した。
「ダメだっ! お前が死んだり生涯の傷を負ったりしたら、俺はあの世でモゲヌになんて言えばいいんだ!」
怒鳴られたのは初めてだった。しかしそれでも自分は諦めず説得した。
……もしかすると恩返しのつもりだったのかもしれない。
伯父はもうすぐ定年。後は任された、安心しろと言いたかっただけなのかも。
*
兵士の養成学校?
私は二人の言い争いをこっそり聞いていた。
どうしてかというと……まあ、たまたまだ。別に私はショタっ気はなかったけど何かの縁。
あの可哀想な子がどうなったかなーと、気になってちょくちょく様子を見にきたり
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