えろい子の絵本

むかしむかし。
天界に一人の天使がいました。
その天使はまだまだ若くて、その仕事といったら雑用ばっかり。
ところがある日先輩の天使に頼みごとをされたのです。

「ああ、あなた! ちょうどいいところに来たわ。えーと…この」
先輩は抱えていたずだ袋からきらきら光る魂を取り出します。
「…この魂を地上に届けてくれないかしら。もう、仕事が多すぎて手が回らないのよ!」
人間の魂は主神から授けられるものです。魂を地上にもっていくということは誰かひとり人間が産まれるのでしょう。
「分かりました先輩。それでこの魂をどこに届ければいいんですか?」

先輩に伝えられた届け先へ着いて天使はおや? と思いました。
この夫婦、子供を作るにはずいぶん歳をとっているように見えたのです。
夫はともかく、妻の方はもう閉じてしまっているんじゃないかってくらいに。
それでも子供を授かれるのだから、この夫婦はとても信仰に厚い人たちなんだろうなと天使は納得し、
夜中、眠っている妻のお腹に魂をそっと入れて地上を立ち去りました。
(いい子が生まれますように)
腹の中に芽生えたばかりの子供にそっと祝福をしてから。

さて、先輩からの頼まれごとが終わってしまえばまた天界で雑用の日々が始まります。
最近は今まで以上に仕事が忙しくなって、どこかの天使が逃げ出してその分が回ってきてるんじゃないかなんて噂までながれる始末。
天使も毎日毎日天界のあちこちをバタバタ駆け回ってへとへとでしたが、その疲れを吹き飛ばしてくれるものがあったのです。

「うん、ちゃんと育ってるみたいだね。早く産まれないかなあ…」
そう、地上から天界へ帰ってきたあの日から天使は暇さえあればしょっちゅう地上をのぞき見していたのです。
最初は(ほんの数時間ぐらい)我慢していたのですが、そのうち自分が持っていった魂がどんな風になったのか気になって気になって仕方がなくなり、
子を宿した妻の腹が膨れていくのを見ながら、どんな子が産まれるのかな? なんて思い出産の日を心待ちにしていたのです。
村の人たちはあの夫婦が子供を作ったと聞いたときは驚きましたが、これも主神のおぼし召しだと考えて素直に祝福し子供の誕生を喜んでくれました。

天使が地上へ降りた日から十月十日。
産まれたのはそれはそれは可愛い男の子。
でも近い年頃の子が誰一人いませんでした。
一番近いのも一回りは歳が離れたお兄さんお姉さんだけ。
それに人の少ない山中の小さな村ですから、子供付きの一家がわざわざ引っ越してくるなんて希望もありません。

男の子は時々寂しそうにしつつも、村人たちから愛情をうけて元気に育っていきました。

「あ、おねしょしてる。お母さん早く気付いて!」
「危ない! 危ない! ハチの巣なんて突っついちゃ……逃げてー!」
「その草は違うよ! それはただの雑草だから! そんなもの煎じたらお腹壊すよ!」
「…………うん、男の子だものね。しょうがないよね。……ああっ、ダメダメ、見てちゃダメだよわたし!」
天使も天界から届かない声をかけつつ見守っていました。

そんな日常が続いていたある日、いつものように男の子を見ていた天使のもとへ先輩がやってきました。
「あ、お疲れ様です先輩。え、いや、これはサボってなんかいませんよ?! ちゃんと休憩時間ですから!」
先輩が硬い雰囲気をまとっていたので、天使は自分がサボっていると勘違いされたのかと思いました。
「ええ、分かっているわそんなこと。別にあなたに用があるわけではないの。少し遠見の鏡を貸してもらえるかしら?」
遠見の鏡というのは読んで字のごとく、遠くの光景を映し出す鏡です。
大きい鏡なので公共物としてあちこちに設置されていて、天使はこれを使って地上を覗いていたのです。

「はい、どうぞ。…どうかしたんですか先輩―――あれ?」
鏡で男の子を映した先輩が一冊の本を手にしていることに天使は気付きました。
黒くて分厚い本。それは天罰で命を奪った人間を記録するための本だったのです。
こんなものをわざわざ持ち出すなんて目的は一つしかありません。
「ちょっと待ってください先輩! その本もしかして……!」
「もしかしなくてもあなたの考えている通りのものよ。その目的も」
天使の顔が青くなります。
「でっ、でもあの子は命を奪われるほど悪いことなんてしてないじゃないですか! 悪いことっていったらせいぜいイタズラぐらいです!
 それにイタズラしても人を傷つけたり、物を壊したりなんてしたことありません! ずっと見ていたわたしにはわかるんです!」
 あの子にはなんの罪もありません!」

天使は必死に先輩を説得しようとしましたが、先輩は首を振って言いました。
「あのね、別にあの男の子が悪いことをしたわけじゃないの。最初からそういう約束だったの」

[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6 7]
[7]TOP
[0]投票 [*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33