今、俺は広大な森の中で、絶賛逃走中だ。
え?何からって?
いくつも足があって長い胴体をしたムカデの下半身に、陰気なツラをした女の上半身を合わせた魔物娘から、だ。
逃げろ逃げろ逃げろ。
絶対に捕まってたまるか!!!
ザザザ…ザザザ…
後ろから俺を追ってくる音が、ずっと付いてくる。
いくつもの足を器用に操り、蛇の様にクネクネと蛇行しながら、ものすごい勢いで追いかけてきやがる。
「ど、どうして逃げるんですかぁ…待ってくださぁい…」
逃げるに決まってんだろ!
お前に捕まる訳にはいかねえんだよ!
「おぞましい怪物が!来るんじゃねぇ!
お前のつがいには、絶対にならねえ!」
「…ふえーん!…スン…スン…酷い……こんなにも愛しているというのに…何がダメなんですかぁ…!私の、どこがぁ…?」
本当におぞましい…。
「そのわざとらしい嘘泣きに始まり!色々全部ひっくるめて、性格だよ!
その肉を狩る為の凶暴な下半身も、大嫌いだね!!
ていうか、嘘泣きするにしても停まってやりやがれ!全速で走りながら空々しいセリフを吐けれると余計に怖いんだよ!」
俺はもっとこう、可愛らしくて平穏な、優しい女の子の方が好きなんだ!
魔物娘だからって偏見は無い。
俺は寧ろ、魔物娘は好きだ。
だが!アイツだけは絶対にダメだ!
あの牙!毒!絡み付いて2度と離すまいとする、執念!
自分の思い通りにする為なら、相手を快楽付けにする手練手管!
あの、陰気な性格も嫌だね!
ジメッとして、伏目がちで、腹の中では性悪な事を考えていやがる!
女の子はもっと、明るく朗らかな方が絶対良い!
あの女に捕まったら最後だ。死ぬまでしゃぶり尽くされる。
「停まってくださぁい…話し合いましょう…よぉ…?
アナタには何だか…誤解があると思うんです…だから…お願いします……」
「絶対に止まるもんか!お前の魂胆は見え透いてんだよ!俺が止まったが最後、凶悪な毒でお前の好き放題されんだろうが!
お前とだけは絶対に関係を何一つ結ぶ気は無い!もう追ってくるな!」
…これだけ言っても、あの女には全く止まる気配が無い……
一体、どうしてこうなった?
〜回想〜
俺はこれでも一端の冒険家だ。
これまで何度も人の立ち入らない危険な場所に行っては貴重な資材を発見して来た。
結構な活躍をしてきたという自負がある。
まぁ、プロってヤツだ。
そんな俺もそれなりに歳をとって、そろそろ身を固めようかなんて考えていたんだが、そんな時にこの大森林の深部での貴重な資材の採取の依頼を受けた。
この森はジパング地方にある。
ここの魔物娘は、比較的人に好かれる様に進化しているらしく。
人との「和」ってモノを持っている。
俺は話に聞いていた、可憐で優しく奥ゆかしく穏やかな「大和撫子」と出会える事を期待して、その依頼を受けた。
良い魔物子との出会いがあれば、その子と身を固めるのも悪くないなぁ、なんて思いながら。
依頼の品自体は難なく入手出来た、俺もプロだ、俺の手にかかればお茶の子さいさいってもんだ。
そんで、少しのんびり帰ろうかと帰路に着いたんだが、途中で小さな洞窟で休憩して行く事にした。
休む前に、中に危険なモノは潜んでいないか確かめた、プロとしては当然だ。
すると、洞窟の中に何かの気配がする事に気がついた。
今思えば、ここで逃げとけば良かったんだ。
中から何か聴こえた、耳を澄ますと女のさめざめとすすり泣く声が聴こえてきた。
洞窟の中に生息する魔物娘だったり野生動物だったりってのは、比較的に、大抵厄介な者が多い。
それは分かっていたんだが、「嫁探し」だなんて浮かれていた俺はつい優しくしちまった。
まぁ、俺と同じくこの森に仕事で入った人間の娘の可能性もあったからそう悪い選択では無かった。
悪かったのは、俺が声をかけちまった「相手」だ。
洞窟内は真っ暗で少し入り組んでいて、相手の姿は見えなかった。
だが、依然としてスンスン泣いてる様だった。
俺は声をかけた。
「お嬢さん、お困りかい?
俺は冒険家として活動しているモンだ。
ここに仕事のついでの休憩がてら立ち寄ったんだが、お前さんの声が聴こえてな、泣いてるみたいで心配になったんだ。俺に出来る事だったら手を貸すぜ?」
「冒険家のお方…ですか…。
…実は…私、怪我をしてしまって…良ければ…包帯になりそうな物と傷薬をくださいませんかぁ…?」
「おう、それだったら持ってきてるぞ。
怪我はどれくらい深いんだ?
そんな物だけで、大丈夫なのか?」
「…はい…それだけあれば…なんとかなると思います…」
…なんだか、虫の知らせというか不穏なモノを感じた俺は洞窟内には立ち入らない事にした。
「お嬢さん、洞窟の中は暗く足元も滑る、悪いがここから投げさせて貰うぞ
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