「…ふふ、人間の男なんて何百年ぶりでしょう」
その女は乱れた髪を耳の方にかきあげながら、独り言のようにつぶやいた。伏せがちな目は吸い込まれるように黒く、中で蜷局を巻いていた。どうしてこんなところにおなごが。そんな清の疑問はすぐに答えが出ることとなった。艶やかな着物から伸びる筈の下半身。よく見ると、それは人間のものではなかった。まるで蛇のようなそれは、うねりを帯びて草の中に消えていた。そして、その先を辿っていくと、彼を囲う何重もの甲冑のような紅の蜷局があった。それはさながら大蛇のようでもあり、龍のようでもあった。彼女が動くたびに、その黒光りする甲冑はずずずと音を立てた。すぐに、清の中で一つの答えが導きだされた。これは噂に聞く、人外。彼は、ごくりと唾を飲み込んだ。
「…あ、あの、安心してくださいね。な、何もとって食べようとはしていないんですから」
彼女は細々しい声でそう言った。そして、その胴体を引きずりながら清との距離を縮めた。なるほど、間近で見ると確かに美人である。流れるような黒髪、ほっそりとした首筋。目鼻立ちもきりっとしている。ただ、眉を顰めてこちらを伺うその眼はどこか卑屈さを感じさせた。とはいえ、やはり下半身を見ると、どうみても、人外。その姿はまるで百足のようだった。
「まさか、この森に、あなたのような人間がくるなんて。と、とっても珍しい事でしたので、私、興奮してしまって」
頬を染めて照れる女の表情を見る限り悪意はないようだ。とすればこの女の目的はなんなのか。その真意を測りかねていると、彼女の手が、清の胸に伸びた。…な!清は突然の彼女の行為が理解できなかった。だが、その細い指は、彼の服の上から明らかに清の体を触ってくる。撫でまわすように、愛おしむように。清は、意志とは関係なく体だけが反応してしまっていた。
「…あん。結構逞しいんですね。」
嬉しそうにそう話す女に対して、清は緊張と痙攣で声さえでなかった。額から汗が滴る。先ほど刺されてから、体がじんじんと熱く、頭も朦朧としてまっている。しかも、彼女の匂いが、鼻につき、それが清から考えることを奪い始めていた。その匂いはまるで香水の原液のように濃厚だった。それだけでうっとりと夢見心地になってしまう。
すると。…ぴちゃ、ぴちゃ。耳元で音がした。女が清の耳たぶをなめる。舌先を出して、まるで弄ぶかのように。清の耳たぶを口に含んで吸い出す。また、彼女の指先は服の中に入り込み、清の乳首をいじり始めていた。乳首の先を指の腹で押し込まれ、そのままぐりぐりとこねくり回される。清は女の官能的な声と指に翻弄されながら、どんどんと彼女に引き込まれてしまっていた。びくんびくんと体が脈打つ。
「…あ…あぁ。…あんた、何をするだ。は、はなせ」
「ねぇ、お願いだから、そんなこと言わないで。悪いことはしませんから」
女が体を密着させる。服の上からでも彼女の乳房の感覚が伝わった。ふっくらとした女の胸。清には初めての感触だった。はぁと息が漏れてしまう。そして、自然と女の手が清の下半身に伸びる。服の上から、形を確かめるように清のものを触る。清はびくんと体をうねらす。女はそんな事お構いなしに、愛でるようになでるまわす。手のひら全体で包み込むように、何度もすりあげる。清は、羞恥のあまり、顔を真っ赤にし、女の漏らした声に一層モノを固くした。
「…はぁん…すごい」
◆
百足とは、多足亜門 ムカデ綱に属する節足動物の総称である。オオムカデ類の油漬けや乾物は火傷や切り傷に効果があるとされ、民間薬として知られているが、一般的には害虫として認識されている。それは彼らの高い攻撃性と、毒性に由来する。それはそうと、この百足は大きすぎる。というか、淫らすぎる。清はそんな事を思った。
「あ、あの、直に触っちゃいますね」
一瞬躊躇うような表情を見せた彼女は、清の着ていた服を丁寧に脱がせる。まるで梱包された贈り物の包みを解くように。褌姿になった清は、恥ずかしさのあまり、眉を寄せる。…ああ、やっぱり私好みの体。百足女が呆けた声で呟く。女の無数にある足が蠢き、その体躯を清の座っていた石に巻きつかせる。
「すみません、私もなんだか、熱くなってしまいました」
彼女は着ていた着物の帯を解く。白く張りのある肌が露わになる。それは青白くどこか不健康さを感じさせる。それとコントラストをなすかのように、臍から脇腹にかけて、刺青のように紫の文様が刻まれている。彼女が動くと、形のよい二つの乳房が揺れた。その先には薄桃色の乳首がつんと立っていた。美しい曲線美と、服を脱いだことで生身の肌から発せられる怪しげな芳香。清は女の体の美しさに舌を巻いた。
「…おめ、ほ、本当におらをくったりしねぇが?」
「だから、さっきから言ってるだけじゃないで
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