清々しい朝。昨日までの愚図ついた空とは打って変わって、快晴。トレーニングを終え、シャワーを浴びた林さんは、キッチンに立って、朝ご飯を作っていた。二人分である。と、ポケットに入れていた、携帯が振動する。彼女は、手を止め、内容を確認する。そして、眉を顰める。
「…任務」
そう呟くと、携帯を閉じた。
◇
林早苗は都内某所の古本屋街と呼ばれる場所にいた。ここは古今東西の書物が集まる場所。インターネットが発達し、書店に赴かなくても、本が買える時代。そんな現代においても、この場所の持つ独特な雰囲気は、本に関わる様々な種類の人間を集めていた。大通りには、万人向けの大きな本屋もあるが、少し脇道に入ると、漢学の書籍や、雑誌だけを集めた本屋、音楽のスコアだけを集めた店など、専門的な書店が並んでいる。
彼女は、メールで指示された店の前に来ていた。その古ぼけた二階建ての本屋の看板には、【白蛇堂書店】と文字が刻まれていた。ゆっくりと扉を開ける。ギィィと重たい扉が開く。そこには、所狭しと本が並んでいた。壁一面が本棚であり、通路にも本棚が存在感を示していた。黴臭い空気が鼻を刺激する。ふと上を見上げると、吹き抜けになっている二階にも本がみっしりと並べられてある。
「早苗様。いえ、ここでは、【早苗鳥(ホトトギス)】でしたね。お待ちしておりました」
奥から女性の声がする。店の一番奥、カウンターに白髪の女性が座っている。と、言ってもその年は若い。見た目だけ言うなら十代と言ったところか。白の着物を綺麗に着こなしている。その目は紅に染まっており、あまりにも白い髪の色と相まって、どこか儚げな印象を受ける。白髪の女は懐から文を出す。それをテーブルの上において、じっと早苗の顔を見つめた。
「ふふ、相変わらずよい目をしていらっしゃる。もしよろしければ、今夜私とご一緒しませんか?」
「【不知火】、私用で呼んだの?」
「ふふ、申し訳ありません、つい」
不知火と呼ばれた少女は、意味深に微笑むと、文を早苗に渡した。
◇
今回の任務は、とある書物を盗み出すというものだ。その本は魔術書の一つで、異性を虜にする方法について事細かに記されているらしい。もともとは禁書としてとある場所に保管されていたのだが、数年前に盗難に合い、やっとその所在が分かったのだそうだ。早苗は、その書物があるという屋敷の近くから、中の様子を伺っていた。ここはジパングでも指折りの徳永財閥の所有する屋敷である。主である金之助は、魔物人間問わず荒い商売をする事で、財をなした成金である。
「………」
ギギギと、入り口の扉が、開く。遠くから走ってきた一台のリムジンが屋敷の中に入る。金之助の帰宅である。早苗は、それを確認すると、屋敷の裏手に回った。屋敷を取り囲む竹林を音もなく疾走していく。数ある監視カメラの隙間を縫い、屋敷後方にたどり着く。瞬間、シュッと彼女の尻尾が伸びる。先端の刃が壁に突き刺さり、楔を打つ。彼女はそれを器用に伝い、屋敷の中へと潜入した。
金之助の屋敷は母屋とそれに繋がる離れがある。金之助は普段書斎のある離れに居るらしいのだが、このところ夜になると、母屋で何やら怪しげな宴をしているらしい。
「んちゅっ、んちゅっ、ぷはぁ。…あん、金之助様ぁ」
「ぐははは、ほれ、もっと、舐めろ、儂が満足するまでなぁ」
屋敷の大部屋。卑猥な音が響いている。竜の掛け軸や、大きな壺のあるその部屋では、金之助による宴が開かれていた。酒や食事が散らかった部屋には、全裸の金之助とそれに群がる魔物や人間の女性達。彼女達はまるで夢見心地のような顔つきで金之助の体に群がっていた。
「まさか、これほどまでとは。恐るべし、魔物の秘術。苦労してあの本を手に入れたかいがあるというもの」
「…あ、金之助様ぁ、私も可愛がってくださいませぇ」
「…ここ、気持ちいいですか?金之助様ぁ」
女達はまるで酒にでも酔ったかのようだった。甘ったるい匂いが辺りに充満している。と、そこへ、障子戸を開けて、一人の女性が入ってくる。艶やかな黒髪、たわわに実った豊満な乳房、それと対を成すように引き締まったくびれ。尻はむっちりとして肉付きがよい。そんな彼女の肉体を、紫の上品な着物が縛りつける。部屋に入ってくるその女の体つきに金之助の目は釘付けになった。若干目つきが少しきつめなところもそそる。金之助は、ごくりと唾を飲み込んだ。
「お初にお目にかかります。私、早苗鳥(ホトトギス)と申します。金蔵様、たっぷり可愛がってくださいまし」
女が、そろそろと歩いて、金之助の傍に座る。酒を徳利に注ぎ、金之助の口元に運ぶ。足を若干崩して座ると、彼女の白い太ももが着物から覗いた。金之助は手を伸ばして、彼女の太ももを触りながら、酒を飲む。
「うっはは、早苗鳥か。気に入っ
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