牛鬼の目にも

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パチ、パチパチ…
ゴオオ…

騒がしい…聞き慣れない音だ

奇妙な音で目が覚め、むくりと起き上がる
今は恐らく…夜、夜中。
それにしては少し明るく感じる、そう思い住み家の洞窟から外に出ると

赤い…?火?

川の傍にある森の奥が明るく照っている、気になってその方角へその黒く毛に覆われた蜘蛛の足を動かす事にした…

「なん、だ…」

燃えている、家が、作物が、人が、家畜が
ゴウゴウゴウ、バキバキ。
里が全域に渡って燃え盛っていた
眩しく柱を立てる炎が目に痛く、その熱が離れていても身を焦がし足を竦ませる

「う、ううっ」

私は、逃げた
炎が怖いと言うものもあったが…
それ以上に里が焼ける姿、何より…人が苦しみながら焼ける姿がどうしようも無く怖かったのだ

私は、初めて死を間近で目にした
人は、あんな風に苦しんで。人は、あんな風に焼けて。人は、あんな風に…
あんな…あんな顔、一生好きになれない。

牛鬼は足早々と、目に焼き付いた光景を振り払うように住み家へ戻り…出来る限り小さくなって眠りに就いた

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その日の昼前。

眠気を押し退けて不快感が襲う、悪い寝覚めだ
まだ昨日浴びた熱が残っているのか酷く蒸し暑い
外はしとしとと小雨が降っている。

火は…消えているだろうか
私はもう一度里へと足を向けた


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雨のお陰か、炎は消えていたようだ
ただこの里は…もう人が住める状態ではない
跡形もないわけではないが…全ての建物は壁か屋根、もしくはその両方が無い。

所々煙が上がっており、色々な物が焦げた臭いがする
そんな異臭に顔をしかめていると

「……ふえっ、えっ、うええええええん!」

泣き声か…赤ん坊の?

こんな地獄絵図の中、弱々しくも生きている事を知らせるように泣いているのだ
あたりを見回して探してみると…半分乾いた田畑の中、うずくまる女性…その傍に。母に守られる様にして。

「うええええええん!ふえええええん!」

私は赤ん坊を抱いていた
子だ、母が命を賭して守った子
人さらいの様に見えるかもしれない、だがこの子を救いたいと強く思った

「子、赤子よ」

話し掛けると、赤ん坊は不思議そうにしていたが泣き止み…

「だあ…」

「怖くないか?」

私の問いを理解してか、赤ん坊は手を伸ばして無邪気に微笑んだ

「そうか」

私は住みかへと大切に運ぶ事とした
あの猛火から母の愛と共に生き残った、力強い奇跡の子を

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私は、ウシオニだ
ただまだ若い、と自負している
夫も無く、当然子も成したことは無い。
故に…

「びええええええええっ!!!」

「な、何故だ、何故…お、おしめは、変えた。腹が減ったか」

「ふえっ、むーっうーっ!」
「何故だ…」

こういう事も多々あった
一応乳離れはしていたようだが、どうにも解せない

そうして、月日は経ってゆき

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「罠、仕掛けたな」

「うん」

「取れたか?」

ニンマリ、と一匹のウサギを両手いっぱいに抱えて顔を綻ばせた
まだまだ小人のように小さいにも関わらず獲物を取れるようになり、すくすくと大きく成長していった
もう立派な男の子だ…

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子を拾って10年
里も所々廃屋があり、元通りとは言わないが元の活気は戻っていた

「これは?」

「釣竿…こう、だ」

「じゃあ、これは?」

「…」

言葉も覚え、少しだけだが文字は書けたので教えているのだが解らないものも。
里の復活に伴い、本も数冊だが売られていたので子と一緒に学んだものだ

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そして…それから。また、10年。
この子も最近は勉学と体力作りに勤しんでいた、それと…悲しそうな顔も多くなって
ついに

「ねえ」

「なんだ?」

「俺、うっすら覚えてるんだ。あの日、貴女じゃないお母さんが守ってくれた事」

「…そうか」

「俺…名前、あるのかな」

「…解らない」

「お父さん、いるのかな」

「…解らない」

「…ねえ、俺…」

「解ってる、好きな所へ行け。お前は強い、あれから更に強くなった」

「…ごめん」

「いい、いつかは思っていた。お前は私の元を離れる、覚悟はあった」

「…俺、忘れないから。絶対、絶対」


当然の事だ、私はいわゆる代理の母
名前を付けなかったのも、私が付けて良いものじゃないから
だから覚悟していたのも本当…しかし、あまりにもあっけなかった

でも、お前もそれだけあっけない方が良かった筈だ。
気兼ね無く、探しに行け。
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あれからというもの、住み家の洞窟は静かになった
何日…経っただろう、料理どころか食べ物すら口に入れていない

気にしてみると案外腹は空くもので、久し振りに獲物でも探すか…と重い腰を上げた矢先

「ここにも魔物が居
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