「では、コレはきみに差し上げます」
そう言って司書さんが手渡してくれた例の貸し出し履歴を見ながら電車に揺られる。
結局、貸し出し履歴の印刷は1枚では収まらず、A4用紙3枚にもなった。
少し情報を整理してみよう。
改めてこの貸し出し履歴を見て気づいたことは5つ。
1.一番古い履歴は今から8年前で、そこから週に2冊程度を継続して借りている
8年前といえば、僕が図書館に通い始めた時期と同じくらいだ。
こんなに本の趣味が合うんだから、どこかの棚の前で顔を合わせていたかもしれないと思うと、やっぱりどこか運命的なものを感じる。
2.借りている本のジャンルや作者に偏りは感じられない
最初のうちは児童書や絵本を借りているが、5年前からは歴史書や伝記物を借り始め、この2年は純文学や詩集などを借りている。
まるで子どもの成長に合わせて読む本が変わっているような印象だ。
そう考えると、この履歴の主と僕は年齢が近いのかもしれない。
うん、これは良いヒントになりそうだ。
3.どの本も借りてから3日以内に返却している
このことから読書が好きなだけではなく、それに充てる十分な時間のある人であることが想像できる。
やっぱり僕と同じくらいの学生の可能性が高い。
部活や塾があるといっても、朝から晩まで仕事の社会人に比べれば本を読む時間はたっぷりある。
4.この人は本当に僕と好みが似ている
履歴にある160冊余りの本すべてというわけではないが、それでもほとんどが僕も読んだことのある本だった。
もし女の子ならそれこそ運命かもしれないし、男だったら…いい友人になれるだろう。
5.そして、最後に「C191」
「個人情報ではないが、ある程度絞ることができる」
司書さんは確かにそう言っていた。
例えば性別や貸し出しカードを作った時期のような、ある程度グループわけができる情報なのかもしれない。
でも、性別はふつう「M」か「F」だし、3桁の数字じゃ年月日を表すことはできない。
それに「C」があるってことは、A・Bもあるんじゃないか?
さう考えると数字だって1から191まであると考えるのが自然だろう。
ということはつまり、最低でもAからCの3種類×191の573通りがあるのか!?
平凡な普通の高校生である僕にそんな規則性なんて分かるとは到底思えない。
そこまで考えたところで、ちょうど電車が自宅の最寄り駅に到着し。
貸し出し履歴の紙をバックに仕舞い一先ず電車を降りる。
駅からの帰り道でも考えを巡らせるが、他にピンとくることはなく自宅へと帰り着いてしまった。
『ただいまー』
玄関を開けて家に入ると奥から夕飯のいい匂いがしている。
どうやら今日のメニューは肉じゃがらしい。
そのままリビングへ進んだ僕に母が声をかけてきた。
『あら、今日は早かったのね。図書館に行くって言ってたから、あと1時間は帰ってこないかと思ったけど』
キッチンで手を洗いながら、「目的の本が貸し出し中だったんだ」と答えると、「あらそう、残念だったわね」と返ってきた。
この話もこれで終わりだと思った僕はうがいをしようと思い、口に水を含むと天井を見上げてブクブクやり始める。
『それにしても、あんた本当にあそこの司書さんが好きよね〜』
『んぐっ!?…げほっげほっ!!!』
何の脈絡もない母からの発言にうがい中の水を飲みこみそうになって慌てて吐き出した。
「どうしたの急に?大丈夫?」なんて言う母の言葉を無視してうがいをやり直し終えると、母が座っているソファーの正面に座る。
『母さん、さっきの何?僕が司書さんを好きって、どういうこと?』
『だってあんた、司書さんに会いに図書館に行ってるでしょ?』
『ち、違うって!僕は図書館が好きなだけだよ!』
『だから、司書さんがいるからじゃないの?』
『そうじゃなくて!本当に、ただ図書館が好きなの!それだけ!』
どうやら母の頭の中では僕が司書さんのことを好きで、司書さんに会いたいがために図書館に通っていると思っていたらしい。
それは誤解だと必死に説明する僕に対して、母は「そうなの?」と意外な様子。
確かに司書さんは物静かで大人っぽいし、長い髪や知的な眼鏡の似合う綺麗なお姉さんではあるけども...
そもそも僕は司書さんの趣味や年齢はおろか名前だって知らないんだから。
そんな僕が司書さんを好きなんていっても説得力のカケラもないではないか。
『母さんもあんたが小さいときに一緒に図書館に行って、何度か話したくらいだけど…
物静かだし、小さくて人見知りだったあんたにも優しく話しかけてくれて良い人だなぁって思ったものよ』
一人考え込んでいた僕を他所に、母は話を続ける。
当時、確か小学校2年生くらいだっただろうか。
この街に引っ越してきて、まだ学校に友
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